06
「私、思ったんですけど」
「なんだ」
行為の後。一緒にお風呂に入って、そこでも悪戯を仕掛けられそうになったけれどなんとか許してもらって、再びベッドに潜り込んだ。
とろとろと微睡みながら抱き寄せられて、この世の幸福を全て享受したような気分になりつつ、そう言えばと呟いた。
「私が変態だとか、恥ずかしいことされて気持ちよくなっちゃうとか、その件についてですけど」
「俺はそこまで言ってねえぞ」
ほとんど言ったようなものです。
必死に否定したし、誤魔化そうとしたし、結果三日間も兵長に触れないという生き地獄を味わうことになった。
「……兵長が嫌じゃないなら……認めてしまっても、いいかなあって……」
兵長がこんないやらしい私でもいいというのなら、こんな私を、全部もらってくれるというのなら。
「……別に俺は最初から、嫌だって言った覚えはねえ」
「え」
今なんと。
「だ、だって『この変態め』とか『続きしてやらない』とか言ったじゃないですか!」
「それ、俺の真似のつもりだったら全く似てねえな」
それは今いいですから!
「だから、別に俺はそれが嫌だとは言ってねえだろうが」
──────確かに。
恥ずかしいことを言われて揶揄されていじめられたけれど──ちょっと待ってほしい。それなら、それなら私は。
「じゃあ、じゃあ私は何で三日もいっぱいいっぱい我慢したんですか!」
「俺が知るか。というよりこの場合俺も被害者だろ。寸前で三日もお預けって頭がおかしくなるだろうが」
「……………………」
「どうした」
頭を抱え込んだ私を抱き寄せて、兵長が平然と問う。
「……兵長のばか……いたたたたたた」
「誰が馬鹿だ大馬鹿野郎が」
むにむにと頬をつねり上げられて悲鳴を上げる。
痛いですごめんなさい馬鹿は私でしたと泣いたら、ようやく離してもらえた。実際、自分でも馬鹿だな……と薄々感づいてはいたので。
「……お前はもう少しでいいから俺に惚れられてる自覚を持て、頼むから」
「────────」
心臓が止まるかと思った。
「兵長……っ」
「……黙れ何も言うな。寝ろ早く」
あと今の言葉は忘れろ。
そんなことを言われても、忘れられるはずがなかった。
顔を背けた兵長に、ぎゅうぎゅうとしがみついた。痛いと文句を言われても、私の身体に回した腕を離さずにいてくれたので、ますます調子に乗るだけだった。
さらさらと髪を撫でられながら、髪飾りを突き返しに来たと思ったのだと告げられた。
「そんなことしませんよ!」
「お前を怒らせたと思った」
だから慌てたと言う兵長に、怒ってませんと何度も告げた。離れている間すごく淋しかったし切なかったし──それでも大好きなのは変わらなかったと。
「兵長がくれた宝物ですから、手放したりしません」
例えそれが何でも。
「首輪でもか」
「普段使いにしちゃいますよ」
「馬鹿言え」
兵長が買ってくれた首輪をつけられる姿を想像して、くすくすと笑った。
「まあ、今は冗談にしといてやる──今はな」
「え……」
「寝るぞ」
「兵長っ? ねえ?」
何だか恐ろしげな言葉を残して、兵長は目を閉じてしまった。こうなった兵長に私が何を言っても無駄で──ああもう。
私はこれから先、どうなってしまうのだろうか。
兵長によって、なんだか未知の世界まで連れて行かれてしまいそうだった。
それすらも嫌ではないのだから、もう諦める他ないのだろう。溜息をひとつ吐いて、意地悪な恋人にそっと寄り添った。
明日も明後日も、ずっと可愛がってもらえますように。
そんなことを、枕元の髪飾りに祈りながら。
変態に恋されて恋してしまいました 終
2013年10月27日発行
「変態に恋されて恋してしまいました」より