変態に恋してしまいました
01*にこやかにステップするな
「随分と機嫌が良さそうだな」
「だって嬉しいんです」
俺の隣で足取りも軽くふわふわと歩いているのを見て、思わず溜息を漏らす。
「何がそんなに嬉しい」
「だって何だか、デートみたいじゃないですか?」
兵長と。と嬉しそうに笑う。何がデートだ馬鹿め。
「ただの備品の買い出しだろうが」
一人では持ちきれそうにないと物言いたげに見つめてくるものだから、付き合わされる羽目になった。手が空いていたから構いはしないが、勤務中なので当然二人とも団服姿だ。色気も何もあったものではない。これのどこが「デート」だというのか。
買い出し自体はすぐに終わった。
注文をしていた品を受け取っているのを後ろから眺めていたのだが、成程大量だ。大袋三つほどになるだろうか。
確かにこいつの体力であれを一人で持ち帰れと言うのは無理があるだろう。
「じゃあええと、すみませんがこれをお願いしてもいいでしょうか」
「阿呆か。それも寄越せ」
三つの内、一つだけを済まなそうに寄越してくるものだから呆れた。何のためにわざわざ俺を連れてきたんだ。
両手に袋を下げて、さっさと行くぞと告げたら妙な顔をしている。一体なんだというんだ。
「おい、」
「やっぱり兵長は優しいですねえ……」
「……行くぞ」
こんなことぐらいで嬉しそうにへらへら笑うな。
見れば残った一つの買い物袋を、両腕で抱え上げている。そのザマでどうやって二つ持つつもりだったんだ。
「そこはほら、私も一応兵士ですから」
鍛えているので! と得意げにしているがどこがだ。両腕でようやく抱えているくせに。
試しにと俺が持っていた荷物を上から乗せてやろうとしたら、
「ひゃあ落ちます重いですごめんなさい無理です!」
と途端に悲鳴をあげていたのでやめてやった。意地を張るからだ。
「兵長が居てくれて良かったです」
助かりましたとにこやかに言われて悪い気はしない。
わざわざ街まで出てきたのでどこかに寄るかと聞いたら、すぐに本部へ戻るのだという。勤務時間だから、さぼっているようで気が引ける、とも。変なところで生真面目な奴だ。
確かに二人揃って荷物を抱えているので、あまりふらつくわけにもいかない。
仕方がない、なら今度また二人で来よう、次の休みはいつだ?
──などと、言えるはずもなかったが。
喉まで出かかったがどうしても口から出せない。言えばこいつがどれだけ喜ぶかわかっていても。
照れか意地かはたまたその両方か。
いい年をして恋人一人うまく甘やかせない己がいい加減嫌になるが、これが俺なのだから諦めるほかない。
だというのに。
隣を見ればそんな俺の苦悩に全く気付いていないような顔で、相変わらず嬉しげな笑みを浮かべて歩いている。
一体、お前は何がそんなに嬉しいんだ。
「兵長と二人で歩けるのが嬉しいんですよう」
こんなチャンスは滅多に無いと浮かれている。
……別に、俺と出歩きたいならそう言えばいいだろう。
くっつきたい抱きつきたい側に居たいとうるさいほどに連呼する割に、そう言えば普段あまり「出かけたい」とは言われていなかったことに思い至る。
思い返してみれば、以前何かの拍子に外でこいつと飯を食ったことがあるが、出かける前から帰った後まで、一日中しまりのない顔をしていた気がする。
……馬鹿が。こんな時ばかり遠慮してるんじゃねえ。
心の中で毒づいたが、それと同時に若干の罪悪感のようなものがこみあげてくる。何で俺が悪いことをしたような気にならなければならないのか。
先程の言葉も、今なら言えるだろうか。
こうやって歩くだけじゃない、飯を食うのでも買い物でもなんでもいい。お前のしたいことは何だ。お前の行きたい店はどこだ。たまには素直に喜ばせてやりたい。
そんな言葉がぐるぐると脳内を巡ったものの、結局は。
「……ふらふら歩いて転ぶなよ」
荷物を撒き散らすな。やはり、口から出るのはそんな言葉ばかりだ。
……これじゃ手も繋げやしねぇ。
両手に持った荷物を抱え直して、改めて溜息を吐いた。