「ひっ、ひ、ひどい、です……っうううっ」
「こら泣くな。気持ち良かっただろうが」
 ぼろぼろと涙をこぼす私を、頭を撫でつつ宥める兵長。私はこんなもので誤魔化されたり、あんまりしないんですからね!
「だって……ううう」
「だって、何だ」
 確かにすごく気持ちよかったし、兵長が触ってくれるのは嬉しかったけれど。気持ちが通じ合って、初めての夜だったから。
「一緒が、良かったのに……っ」
 兵長と一緒にいきたかったとべそべそ泣くと、撫でていた手が止まる。
「へいちょう……?」
「……次は、そうしてやるから」
 だからそう物凄いことをしれっと言ってくれるな。
「約束ですよ……」
「わかったから黙れ」
 本当にわかってくれたのだろうか。宥めるような口づけで、結局誤魔化されたような気もする。
「ひゃ、」
 再び伸ばされた指が、秘裂を割る。くちくちと音が響いて、それだけで濡らしてしまっているのがわかってしまって恥ずかしい。
「ぁ、あっ……」
「もう大丈夫そうだな」
 これだけ濡れていれば。
「そ、そんなこと言わないでくださ……あっ」
 自分でもわかっているけれど、言葉にされると恥ずかしいと抗議するのも束の間、指の代わりに熱いものがあてがわれる。
「ぁ……」
「これ以上お預けは無しだ」
 ぬるり、ぬるりと緩やかに動かされているそれは、間違いなく。
 かたく屹立した熱が秘裂を辿ると、それだけで感じてしまう。むずむずと、まるで早くそれで埋めて欲しいとでもいうような感覚が這い上がる。このままでは恥ずかしくねだってしまいそうで、どうにかしてほしいのに。
「ほら、どうしてほしい」
 そんな私の心の中を読むかのように、兵長が意地悪く問いつめる。言わなければずっとこのままだと。中途半端な刺激に煽られ続けて、もう身体は限界だと訴えている。
「……て、」
「ん?」
 聞こえないと、どこまでも私を苛む兵長はどこまでも意地悪で。
 それでも、この人が好きだ。
「も、欲しい、です……兵長の、」
 入れてほしいと切れ切れにねだる。羞恥にぼろぼろとこぼれた涙は、兵長の舌に舐めとられた。
「よくできた、……俺も」
 もう限界だ、と聞こえると同時。
「あ、あ、あ──!」
 熱く昂ぶったそれに一息に貫かれた。
「あ、ぅ……っ」
 熱くて固くて大きいそれ。何度も受け入れている筈なのに、いつまでも慣れることがない。
 奥まで受け入れてきゅうきゅうと締め付ける。馴染むまで動かずに待っていてくれるのはいつものことだ。酷く辱められて泣かされるのに、こんなところだけが優しい。
「あんまり締めんな……我慢がきかねえ」
 めちゃくちゃにするぞと脅されても、不思議と怖くはなかった。
「して、くださ……い、」
 兵長の好きに動いて、気持ちよくして。
 淫らな言葉を吐き出している自覚はあるのに、止められなかった。
「……馬鹿野郎っ」
「っあ、あ、ああっ」
 身体の中を、兵長の熱が動いている。擦りつけるように私の中を何度も行き来する昂ぶりに、否応なしに声をあげてしまう。
 奥まで貫かれてからゆっくりと抜かれるのが気持ちよくてたまらない。上側の壁を突かれると、私の意思に関係なくびくびくと身体が跳ねた。
 感じる場所をもう何カ所も知られてしまっていて、狙い澄ましたように擦り上げられる。敏感な芽の裏側を先端で擦られて、気持ちよさに涙が滲んだ。
「あっ、あ、兵長、兵長……っ」
 すき、すき、きもちいい、と。そればかりを繰り返すしかできない。激しい律動を繰り返す内、兵長も限界が近いと知る。
「……っく、」
「あ……っ」
 いつものように引き抜こうとする兵長に、声をあげてしまった。どこにもいかないでとしがみつきたい。
「や、や、ほしい、です……っ」
 最後まで私の中にいてとねだる私に、苦しげに眉根を寄せて。
「……この、馬鹿が」
 すきだ。
 あのとき言われたのと同じ言葉が、甘く低く耳に流し込まれる。
「あ、あ、あ──!」
 ひときわ大きくなった熱に奥を擦られ、限界を迎えて締め付けると同時。身体の中を満たされてゆく感覚に、意識が白く染まっていった。

「きもちよかったです……」
「……それは、良かったな」
 結構なことだと素っ気なく返す兵長に、ようやく言うことをきくようになった身体ですり寄った。
「今までで一番気持ちよかったです……」
「……そうか」
 うっとりと繰り返す私に対して、兵長の返答はやはり素っ気ない。
「……兵長は、もしかしてあんまり気持ちよくなかったですか」
「……なんでそうなる」
 だって、先ほどからそっぽを向いているし、どことなく素っ気ないし。
「そっち向いてやってもいいが、もう一回付き合う覚悟はあるのか」
「すみませんでしたお心遣いありがとうございますそれではおやすみなさい」
「まあ待て」
「無理です無理ですほんと無理です今夜はもう!」
 こちらを向いた兵長に必死で言い募る。一晩に何度もしたことがないとは言わないが、今日ほど消耗したことはない。気持ちよすぎてつらいということも経験していたつもりだったが、今夜はそれを凌駕していて。
「だから、俺はその気にならねぇようにしてやってたんだろうが」
 その努力を無駄にしやがってと手を伸ばしてくる兵長に、私が完全に悪かったですごめんなさい許してと泣きつくと、渋々ながら諦めてくれた。
「次は泣いても許してやらねえぞ」
 今から楽しみにしておけよと笑みを浮かべる兵長は、どこまでも楽しそうで、恐ろしかった。
「兵長……」
「なんだ」
「好きって言ってもらえて、すごく嬉しかったです」
 私も言えて、すごく嬉しいです。
「そうか……なら、これからも言え。そうじゃなきゃ……わからねえんだよ俺は」
 肝心な言葉を伝えそびれていることにも気づかず、三ヶ月間おかしなことをしていたものだ。きちんと言えていたら、もっと早く伝わっていたかもしれないのに。
「あの、私たちは、両思いというやつでいいのですよね」
「まあ、そうだな」
「で、でしたらっ、こ、恋人ということで、よいのでしょうか……っ」
「……お前がいいならな」
 私がよくないと言うとでもお思いか。どれだけ兵長のことを好きだと思っているのか。
「俺の女になるなら、万が一にも他の奴に脚開くなよ」
 俺が人を殺すところを見たくないのなら。
「……兵長としかしたくないから大丈夫です」
 俺の女という響きに有頂天になる。なんだかその後に恐ろしいことを言っていたような気もするけれど、私の身体も心も兵長だけのものなのだから、心配はないだろう。安心したら眠気が襲ってきて、ふわふわと微睡みはじめる。
「全部、兵長のものにしてくださいね……」
 約束ですよ、と言う言葉を最後に、少しずつ眠りの世界へ吸い込まれていく。好きです、大好きですと伝わったかどうか。俺もだ、と聞こえたのが、幻ではないと信じたい。暖かな腕に包まれて、今度こそ眠りにおちていった。


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