008
「あ、やっぱり見つかっちゃった?」
「見ないでくださいハンジさん……」
あの後、もう逃がさないと宣言された。までは良かったのだが。
何故か荷物のように肩に担ぎ上げられて部屋から運び出された。そのまま廊下を進もうとするので、慌てて降ろしてくださいと懇願したものの、またいつ逃げるかわからないと聞き入れてもらえなかった。
もう逃げませんと誓っても、許してもらえなかった。間抜けな格好で担がれている姿をどうか誰にも見られませんようにと祈っていたのに、やはりというか何というか目撃された。まだ知り合いなだけ良かったと自分を慰めるべきか、知り合いだから余計恥ずかしいと落ち込むべきか。
「てめぇ……さっきはよくもとぼけやがったな」
どこに居るか知らねえとか言いやがって。
隠し部屋の存在を、ハンジさんは兵長に黙っていてくれたらしい。
「だって本当に知らなかったんだよ? どこにいるか予想しろって言ってくれたら話は別だったけど」
「後で覚えてろよ……」
必ずや報いを受けろと言い放つ兵長に爆笑するハンジさん。すごい。兵長と対等に渡り合っている。
「その調子なら、胸は貸さなくて大丈夫そうかな?」
おかげさまでと弱々しく笑うと、どういうことだと即座に問いつめられた。
「リヴァイが酷いことしたら、いつでもこの豊満なバストで泣いていいよーって言ったんだよ」
「何が豊満だこの断崖絶壁が」
言ってはならんことを! と言い合う二人。仲が良いのは結構なのですが、このままだと他の人が集まってきそうなのですが。
「兵長、兵長っ」
「何だ、今ちょっと黙ってろ」
「……はやく、お部屋に行きたいです……」
そう言ってしがみつくと、ぴたりと動きが止まった。その後「ああ」とか「そうか」とか口ごもりつつ、ぎこちない動きで歩き始める。
これ以上他の人に見られてはたまらないのでそう言ったのだけれど、私はまた何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。
何だか笑いをこらえているようなハンジさんに見送られつつ、私は廊下を運ばれていった。
「ふぎゃっ」
乱暴にベッドに落とされて、間抜けな悲鳴をあげる。痛いですと弱音を吐く間もなく、兵長にのし掛かられて。
「もう一回言え」
さっきのやつ、と要求される。さっきのとは、一体どれのことか。何だか色々言い放ってしまったような気がして、今更ながら後悔が押し寄せてくるのです。
「だから、その、あれだ。お前が俺のことをどうこうって言うやつだ」
「……好きです」
合ってるかな。これ間違ってたらかなり恥ずかしいな。
「もう一度」
「好きです、兵長。大好きです」
「……そういうことは、もっと早く言っとけ馬鹿」
罵られているのについ口元が緩んでしまうのは、言葉とは裏腹に顔中にいくつも口づけを落とされているからか。
「練習がいらなくなっても、私ともしてほしいです」
「……その言い方だと、お前以外とやってもいいって聞こえるぞ」
「……私だけに、してほしいです」
こんな贅沢を言っても許されるのだろうか。こんな、独り占めしたいとでも言うような。
「最初からそのつもりじゃなきゃやらねぇよ。それくらいわかれ」
その代わり、お前も他の奴にどうこうされたら承知しねぇからな。
こんなに幸せでいいのだろうか。甘い言葉と独占欲をもらって、ああもう、死ぬなら今がいい。
「馬鹿言え。誰が死なすか」
昨日の晩の分も、今から抱くから覚悟しろ。
「はい……全部、どうぞ」
私の全部を、兵長に。
「ん、ん……ふふ」
「おい、何笑ってやがる」
口づけの合間に笑みがこぼれ、そのままくすくすと笑い出してしまった私を、不満そうに見下ろす兵長。すみません、でも。
「両思いになって、初めてするって思ったら、嬉しくて」
今までも触れてもらうだけで嬉しかったけれど、自分の気持ちを伝えて、兵長からも気持ちを返してもらって。これまでよりもずっと嬉しいんです、兵長。
「そうか」
「そうですよ」
兵長も同じだと嬉しいのですがと呟いたら、態度で察しろとはぐらかされた。
「……いっぱいしてくださいね」
「…………お前、知らねぇからな」
覚悟しろと宣言されて、きつく抱きしめられた。
あの時と同じようにしよう、と言われた。
最初の時と同じように、もう一度「初めて」をやり直すために。同じ順序で抱くと宣言された。
何度も繰り返される口づけは、初めは触れるだけ。角度を変えては何度も、唇以外にも頬や額、瞼にまで。取られた手首に口づけられて、くすぐったいと笑えばゆるく歯を立てられた。
それだけでひくりと反応を返してしまう身体は、他ならぬ兵長に作り変えられたもの。触れられた場所からとろけそうだと言うと、深い口づけが与えられる。
咥内を蹂躙する舌になんとかついていこうとするも、翻弄されるばかりだった。怯えて奥に引っ込みそうになる舌は逃がしてもらえる筈もなく、絡ませたまま存分に味わう。飲み込みきれない唾液が口の端からこぼれてしまって、拭おうにも腕に力が入らない。
「ゃ、あ、あ……っ」
くったりと力が抜けてしまったことを悟られたのか、口づけでの攻撃をやめた兵長は私の身体へと手を伸ばした。
「ぁ、ぁん……」
今、どこに触られても気持ちいい。やわやわと両胸を揉まれ、声が止められない。
「兵長、何かしました……か……っ?」
「何かって何だ」
「変な、薬とか……っ」
そうでなければ、どうしてこんなに過敏に反応を返してしまうというのか。
「俺は何もしてないぞ」
変わったとすればお前の身体だろう。
「私、のっ?」
「だろうな」
いやらしい身体になったようで何よりだと、耳に流し込まれた言葉で一気に体温があがる。なんてことを言うのですか!
「違うか? これでも」
「ひゃ、んん……っ」
赤く色づく胸の尖りをぬるりと舐め上げる舌に、びくりと跳ね上がる。自分の身体が変わってゆくのが怖いのに、兵長が触れていると思うと抵抗しようという意思すら浮かばない。
「あ! ゃ、んっ」
尖らせた舌でつつくようにされたと思ったら、唇で挟まれ吸うようにされて声が抑えられない。甘く歯を立てられたら、悲鳴のような声までも。
口でいじめられている間、もう片方の胸は手のひらと指で揉みしだかれていた。両胸を違った感覚で責め立てられて、呼吸すらままならない程だった。
このままでは胸を弄られているだけでおかしくなってしまいそうで、兵長の手にかり、と爪を立てる。けれどニヤリと笑う兵長は「煽るな」と言うだけでやめてくれない。
「やぅ、も、だめ、だめです……」
背筋をぞくりと這い上がってくるこれは、間違いなく快楽というものだった。目の前で私を好きなように翻弄する男に、教え込まれたもの。
「むね、だけ……や……」
そこばかり触らないで、手加減してほしいと言ったつもりだったのに。
「こっちも欲しいのか、欲張りめ」
「や、ちが、あ、あ────!」
空いていた右手が下肢に伸ばされ、まだ駄目と言う間も与えられずに秘裂に指が触れる。
散々胸を弄られていたせいですっかり敏感になってしまっていたそこは、ぬるぬると辿るようにされただけで指を飲みこむように蠢いてしまう。
恥ずかしさに思わず涙が溢れると、宥めるように舐めとられた。
「ゆび、駄目です、まだ……っ」
もう少しだけゆっくり、と言いたかったのに、兵長の返答は。
「そうか、指は駄目か」
「……っ? や、ちが、あ──っ」
指では駄目かと言ったと思うと、触れていた右手が離れていく。ようやく息がつけるかと安堵したのもつかの間、その手は私の脚へと。
「や、うそ、やだやだやだ、あああっ」
ぐい、と両脚を割られて大きく開かされる。恥ずかしい場所が全て晒されて、それだけでも死んでしまいそうなのに、兵長が。兵長の舌が、そこに。
「や、やだ、やめ、やめてくださ……っひぅん」
「こら暴れんな。大人しく感じとけ」
これが現実だと信じたくない。
「初めてと、同じにするって、ぁん……っ」
最初の時は、こんなに恥ずかしいことをされなかった。指で慣らされただけだったのに。
「あの時もしてやろうとしたが、あいにく俺の方に余裕がなくてな」
これはその時の分だ、などと言いながら、動きが再開された。
脚の間に埋まる兵長の頭と、秘所から響く音。それとそこから這い上がるとてつもない刺激に、逃れようと身をよじる。
それで逃がしてもらえる筈もなく、ぴちゃぴちゃと耳を塞ぎたくなる音は止まない。秘裂を舐め上げられ、舌が割るように侵入してくる。
「あっ、あっ、やぁん……っ」
指と違う柔らかくぬめる感触に身体の内側を蹂躙されて、声が抑えられない。
とろとろと溢れていく蜜が恥ずかしいのに、どうすることもできなかった。直接的な刺激にもう許してと泣いても、責め立てられる動きは止まらなくて。
「ここもちゃんと、かわいがってやらねぇとな」
「や、嘘、や──!」
身体の中心、その一番敏感な芽に、兵長の舌が触れる。隠していた皮をめくるように刺激されて、そのまま尖らせた舌で、何度も。
「ああっ、ん、や、もう、もう……っ」
これ以上されては、本当にどうにかなってしまう。それなのに。
「ほら、一度……いっとけ」
「や、あ、あ────!」
唇でそっと挟まれて、ちゅう、と緩く吸われて。
刺激に耐えられなくなった私は、為すすべもなく声を上げて達してしまった。
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