※ほんの少しだけ60話要素含みます


朝がくるから


「や、もうやぁ……無理、無理ぃ……っ」
「どこがだ。離さねぇのはてめぇの方だろうが……っ」

 ぎしぎしと音を立てるベッド。
 下半身からはぬちゅぬちゅといやらしい音までも響いて、耳を塞ぎたいのに両手がいうことをきかない。
 否、いうことを聞いてくれないのは両手だけではなく全身かもしれなかった。
 涙の膜が張ってぼやける視界の中、それでも必死に視線をやれば、身体の上で私を揺さぶるリヴァイ兵長と目が合った。
「もう、もういっちゃ……いっちゃった、から……」
「ああ、知ってる」
 身体も思考もどろどろに溶かされて、兵長の動きに声をあげるしかできなくなってからもう何時間経っただろう。
 触れてもらうのが嬉しくて、抱き合うのが気持ちよくて、夢中になったのは私の方だと思う──多分。
「遠慮するな。俺はまだいける」
「遠慮じゃ、ないです……っあ、あ!」
「ココもか。お前、感じる場所が何箇所あるんだ」
 ぐりぐりと内部を擦り上げられる度に、お腹の奥からぞくぞくと快感が這い上がって身体を震わせる。
「ぜんぶ、ぜんぶ……気持ち、い……っ」
「……そういうことを、言うから」
 やめてやれないんだ。
「あ……っ! や、あ、んん……っ」
 もう気持ちよすぎてつらいから動かないで。私の必死の懇願も聞き入れてはもらえず、兵長の動きが激しさを増す。
 水音と皮膚のぶつかり合う音。
 呼吸すらままならない程に突き上げられて、苦しいのに気持ちいい。だけどつらい。頭の中がぐちゃぐちゃで、必死に兵長の名を呼んでしがみついて──思考が真っ白に染まった頃、兵長は身体をぶるりと震わせながら、今日何度目かの迸りを注ぎ込んだ。
「は……は……」
 ひゅうひゅうと呼吸するだけで精一杯だった。
 もう指の一本すら動かせない。
「……リン」
「ん、ぅ」
 二人とも汗だくで、色んな体液にまみれてしまっている。
 こういった状況を嫌がりそうなのは兵長の方なのに、どろどろのまま抱き合うことを厭わない。それが最初の頃は少しだけ意外だった。
 優しく繰り返される口付けをうっとりと受け止めていると、下半身の方で何やら不穏な動きを感じて思わず青ざめた。
「!? 兵長……?」
「ん?」
「ん? じゃないです何して……っ」
 先程たっぷりと精を吐き出した筈の兵長のそれは、力を失った筈なのにいつの間にかまた、少しずつ。
「ゃ、動いちゃ、だめ、っ」
 ゆるゆると、溢れた体液を塗りつけるように兵長が腰を揺らすと、散々突かれていた身体は勝手に反応を返してしまいそうになる。
「おい、手をどけろ」
「だめ……です……っ」
 どうか動かないでと、力の抜けかけている腕で兵長の肩やら胸やらを必死に掴もうとする私に、兵長は不満そうな顔をする。
「もう、ほんとに……これ以上されたら、私……」
「潮まで吹いてよがってたから、まだ足りねぇんじゃねえのか」
「……! ……!!!」
「オイ痛ぇぞ」
 もう言葉にならない。
 ぽかぽかと殴りつける私に、兵長は痛いと言うけれどきっと嘘だ。
「ぁ……」
「どうした」
 窓の外に目をやる私に、兵長が首をかしげる。
「もう朝、朝ですから兵長……!」
「あ? そんな筈があるか…………クソ」
 時計を見た兵長が続いて窓の外を見て、吐き捨てるように毒づいた。まだ四時前で、本来なら明け方すら迎えていないような時刻だけれど──東の空が、うっすらと色づいている。
 夏を目前にしたこの季節。太陽が昇るのが日に日に早くなってきていて、夏至の前ともなればこの時間でも空はほんのりと明るくなり始める。
 まだほんの少し空の色が変わっているだけだが、何としてもこれを朝だと言い張りたい。体力的に限界を迎えている私は必死だった。
「朝だから寝ましょう兵長」
「普通は夜だから寝るもんだが」
「夜に寝かせてくれなかったのは兵長じゃないですか!」
「……一時くらいまではリンの方がねだってきてたろうが」
「わー!」
 口を塞ぐ私に眉をしかめ、離せと乱暴に手を外される。かじられたらどうしようかと思った。何せ、やられたことがあるので。
「叫べるなら元気じゃねぇのか」
「……そんなことないです」
 実は本当にぐったりしていて、急速に眠気が襲いかかってきている。何とか起き上がって身体を綺麗にして、どろどろになったシーツも替えて、そして──
「いい、後はやってやるから寝てろ」
「で、も……」
「舌まわってねぇぞ」
 意識の無い間に身体を拭われるというのはどうにも気恥ずかしくて躊躇する私に、兵長はそっと手を伸ばす。両目を塞がれるように隠されると自然に目を瞑ってしまって、そうするとどんどん眠りの世界へと引き込まれてゆく。
 ああ、でも、これだけは言っておかないと。
「へいちょう……」
「何だよ」
「兵長と……するのが嫌なんじゃ、ないですからね……」
 抱いてくれるのは嬉しいし気持ちいいし好きだ。
 一晩にこなせる回数が限界をこえてしまうだけで、兵長に抱かれるのを本当は拒みたくない。
 そんなことをむにゃむにゃと言った気がする。
 半分寝ぼけているので、伝わったかはわからないけれど、それでも。
「……知ってる。ほら、寝ちまえ」
 おやすみ。
 心地よい兵長の声が耳に流し込まれて、私は今度こそ眠りの世界へと落ちていった。


 +++


 そんなことがあったのを、すっかり忘れてしばらく経った。
 夏の終わりと秋の気配。どちらも少し淋しくてこの頃私はやけに兵長にくっつきたいと感じてしまう。
「ので、くっつこうと思うんです」
「…………」
 無言で嫌そうな顔をするのをやめてほしい。
 一人掛けのソファに腰掛けて私を見上げる兵長に、堂々と宣言した。くっつかせてほしいと。
「一つ聞くが」
「どうぞ」
「お前が俺にべたべたしたくねぇ季節ってのはあるのか?」
「ないですね! ……ひゃあ!」
 笑顔でそう答えて脇腹をつままれた。
 そのまま揉みこむのはやめてください痛いしくすぐったいし。
 身悶える私に飽きたのか何なのか、兵長は無言で立ち上がるとすたすた歩いて、側にあるまた別のソファにどかりと腰を下ろした。そのまま無言で手近にあった本を開くと、私を無視してページをめくりだしてしまう。
 これだけなら兵長の意識から存在を抹消されたと嘆くところなのだが、私の口角は自然と上がる。何故ならば。
 兵長が今座っているソファは二人掛けで。
 肘掛けにもたれるようにしているので、半分のスペースががら空きで。
 本に没頭している兵長がちらりとこちらに視線を寄越して、目が合うと慌てて逸らした。
 これが兵長の「こっちへおいで」だった。
「勝手なこと抜かすんじゃねえ」
「えへへへへへ……」
 でれでれとだらしなく笑いながら兵長の横に座り込む。両腕を伸ばして兵長の身体に巻き付けて。ぐりぐりと胴体に頭をすり寄せて、鬱陶しい離れろと言われながら頭を乱暴に撫でられるまでがセットだ。
「兵長大好き……」
「知ってる」
 近頃は夜になると風が涼しい。
 密着している体温が恋しくて、更にきつく抱きつくと苦しいと文句を言われるけれど気にせず頬をすり寄せた。
 うっとりと目を閉じていると、私の頭を撫でていた手が首筋やら背中やらに移動して、どうにも心地よくてたまらない。
 ゆっくり撫でられるのに合わせて意識がとろんとしてしまって、ずるずると兵長の膝に倒れ込んだ。引き締まりすぎている兵長の太腿は枕にするには硬いけれど、撫でてくれる手つきが柔らかいので問題ない。
 それだけで何だか切なかった気持ちが吹き飛んでいくようで、心地よさに少しずつ眠気までもが襲ってきた。ここで眠ってはいけないと思うのに、さらさらと髪をいじる兵長の指先の感触に目を開けていられない。段々と目を瞑っている時間の方が長くなって、そのまま気付けば私は眠り込んでしまっていた。

 +++

「……ん、ふぁ……っ? すみません、寝ちゃってました!」
「やっと起きたか」
 とろとろとした暖かさに包まれながらうっすらと目を開けると、そこはベッドではなく兵長の膝だった。
 慌てて起き上がると兵長は呆れたような目をして私を見ている。どうしよう、涎とか垂らしてたら。思わず口の周りを手で拭ってしまった。
「人の膝で爆睡しやがって。いい気なもんだな」
「す、すみません……」
 あまりにも暖かくて幸せで気持ちよくて、睡魔に抗えなかった。夏の間は蒸し暑くて睡眠不足だったから、その分を取り返そうとしているのかもしれない。
「ちなみに今って……」
「もうじき日付が変わる」
「……それはそれは……結構な爆睡を……脚、痛くないですか?」
 ずっと私の頭を乗せたままにしておいてくれたのなら、さぞや重かったろうに。思わず兵長の太腿をそっと撫でる
「これくらいでどうにかなるような鍛え方はしてねえ」
 事も無げに返された。
「早くお風呂入っちゃった方がいいですね……今夜眠れるかな」
 すっかり眠りこんでしまったので、ぱっちりと目覚めてしまった。
 寝付けなければ兵長の寝顔でも眺めて過ごせばいいかと、勝手に今夜の予定を決めていると兵長が立ち上がってタオルを手渡してくれながら言った。
「……その心配なら無用だな」
「え?」
 そう言った兵長がいつになく楽しそうだったことに、私が気付くのは数時間後だった。

 +++

「……も、無理、です……」
「嘘つけ。こんなにしといて」
 兵長が耳元で喋るだけで感じた。
 びくんと身体を震わせただけでそれが兵長にはバレてしまったようで、薄く笑われて恥ずかしくてたまらない。

 あの後、お風呂に入って──当然のような顔で兵長も入ってきた。あまりに堂々としていたので私が何か言える筈もなく──ほかほかの身体で寝室の扉を開けたら、背後から兵長に捕まった。
「兵長?」
 まだしっとりと濡れた兵長の髪を肩口に感じる。
 兵長は私をきつく抱き寄せたまま、肩と首の間に何度も口付けながら静かに呟く。
「……いいか?」
 何を、なんて聞くまでもなかったし、いいかどうかも聞かれるまでもない。
 無言でこくりと頷くと、腕の力が緩んだ。そのまま身体を兵長へと向けられて、深く口づけられて。気付いたら私の背中にはベッドの感触があって。そして。

「もう、たくさんした……のにぃ……っ」
「俺はまだ二回だ」
 私はもう数えるのをやめた。というか数える余裕なんてない。
 何度も何度も身体を繋いで、達する度に意識を飛ばしてしまいそうになっては兵長に引き戻された。今だって私の中には兵長の熱が深く潜り込んだままで、声をあげて喋る度に変に力が入ってしまって、締めつけてしまうのがつらい。
 兵長の形を嫌でも意識してしまうし、押し広げられたままで気持ちいいし、動いていないのに気持ちよくなってしまっているのがバレたら恥ずかしいし。
「だって……もう、四時……っ?」
 時計を確認すると、真夜中すら通り過ぎている。
 私が寝入ってしまったせいで始まるのが遅かったけれど、流石にもう朝がきてしまう。
「へいちょう、朝になっちゃう、からぁ……!」
 ああ、確かしばらく前にもこんなことを言った気がする。そうだ、まだ夏を迎える前で、今みたいに夜通し抱き合って私の方が音を上げたのだった。

 あの時は、どうやって許してもらったんだっけ──?

「朝……? 嘘つけ」
 私を組み敷きながら、兵長はひっそりと口角を上げる。その表情はなんというか、嫌な予感しかしないというか。
「まだまだ暗いじゃねぇか……夜だ夜」
「嘘……っ?」
 窓の外を見てみると、確かに言われた通り闇に包まれていて星すら瞬いている。朝の気配などどこにもない。
 そこで私は思い出す。
 昼間同僚達と「最近は日が詰まってきたね」「夏至からあっという間ね」なんて、取り留めもない会話をしたことを。
 夏の終わり、秋の始まり。
 日が昇るまで──きっとまだまだある。
「兵長……もしかしてずっと根に持ってましたか」
 朝だからもう駄目だとおしまいにしてもらったのを。
「根に持つ? 人聞きの悪いことを言うな」
 そう言いながら、兵長は再び私の中を穿ち始める。急な突き上げに、悲鳴混じりの嬌声をあげることしかできない。
「ひゃ、あ、あっ、ん、」
「そうだ……何も根に持ってなんかいねえ。朝が来なきゃいくらでも抱いてていいって、言ったのはお前だろうが」
「い、言って、な……っあ!」
 ゆさゆさと突き上げられる感覚。たまらなく気持ちがいいけれど身体は悲鳴を上げている。気持ちよすぎてつらい。
 酷いことばかり言う兵長なのに、触れる手も指も舌も穿つ熱も全て、私が気持ちよくなるように動いてくれる。
 だから、もう無理だと何度も言いながら、それでも兵長に腕を伸ばしてしがみついてしまうのは仕方のないことだった。
「ゃ、あ──……!」
「俺が空っぽになるまで、付き合ってみるか?」
 恐ろしい言葉を口にする兵長の、声も表情も手さえも優しい。ゆっくりと何度も深く口付けられて、唇を離しながら兵長は言った。

「さあ──朝まで頑張ろうか」


 +++


 それからしばらくして、兵長が雑談しているところにたまたま通りがかった。
「好きな季節? 別に無いが──いや、そうだな……冬か」

 ──何せ、夜が長いのがいい。

 それを聞いた私がその場で頭を抱えて座り込んだのも、無理はないと思う。

end


例の「頑張ろうか」に身悶えましたという話です
20140831


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