触っちゃ駄目です触れてください


「や、やめてください……っ」
「うるせえ喚くな」
「駄目です、駄目ですってばあああっ」
「生意気に抵抗するとはいい度胸してるじゃねえか」
「やああああ! 駄目です兵長、やだ……っ



 ……だから今は足痺れてるから触ったら駄目ですうううううう!」



「耳元で叫ぶな」
「兵長が触るからじゃないですかあ!」

 ***

 リヴァイ兵長の部屋に押しかけ、ベッドの上でうっかり変な体勢で座ってしまい、そのまま数十分くつろいでしまった私は立ち上がろうとして無様にベッドに沈んだ。
 足が痺れて立てませんと泣き言を漏らす私に近づく兵長の顔が、とても楽しそうに見えた時点で気付くべきだった。
「どれ、見せてみろ」
「え? ってひぃあああああ」
「うるせえ」
 近づいてきて、ベッドに仰向けで倒れる私の足元に座ったかと思うと、躊躇いもなく痺れた足をつつく兵長。
 瞬間、ただでさえびりびりと痺れている足は痛いやらむず痒いやら痛いやら、とにかく耐え難い刺激に襲われる。
 私がひぃひぃ叫ぶと、それが面白いのか更に触ってこようとする。
 駄目です、痛いですと弱音を吐いたら余計楽しそうに見えるのは気のせいか。
 いや気のせいではない。だってちょっと口角が上がっている気がする。
「兵長、面白がってますね……っ?」
「さあな」
 絶対面白がっている。私をいじめるいい機会だ、くらいのことを思っている!
「誰がいじめてる。人聞きの悪い」
「明らかにこれ意地悪ですようううあだだだだ」
 足だけだった痺れは段々と脛の辺りまで広がってきて、じくじくと私を苛む。つらい。
 このまましばらくの間はじっと丸まって耐えていたいのに、兵長はそうさせてくれない。
 つつく、撫でる、揉みほぐすようにさする。
 普段ならば何ともない(むしろちょっと嬉しい)その動作も、こんなときではただひたすらに辛い。
「早く血行戻した方がいいだろ」
「そっとしてればすぐに戻りますからあ!」
 私の言葉につまらなそうな顔をする。何が不満か!

「も、ほんと駄目です触っちゃ駄目ですっ」
「俺でもか」
 兵長以外の誰が痺れた私の足をこのように好き放題するというのか。
「駄目ですっ」
「……」
 懇願といってもいい私の叫びが通じたのか、ようやく手を放してくれる兵長。
 ベッドからも立ち上がり、ソファに移ってしまった。
 痺れた足にさえ触れないなら、側にいてくれたらいいのにな、なんて我儘なことを考えてしまうが仕方ない。
 ベッドでごろごろと転がりつつ、足の痺れが去ってくれるのを待った。

「あー……やっと感覚が戻ってきた気がします」
 数分後。
 ようやく足の痺れから解放されたものの、ここまで痺れるまで気付かないのはどうなんだと自分に問いたい。
「……」
「兵長?」
「…………」
 兵長はソファに座ったまま本から目を離さない。
 そして無言だ。
「どうしたんですか?」
 ベッドから降りて近づく。
「………………」
 私が目の前まで来ても無言だ。そして。
「えっ」
 ふい、と身体ごと背を向けられた。
「えっ えっ兵長?」
 どうしたんですか一体何がと慌てる私を意にも介さず、ひたすら読書を続ける兵長。
 いきなりの無視に戸惑う私に、ずっと黙っていた兵長がようやく口を開いて。

「……俺には触られたくもねえんだろ」

 そう言ってあとはまた無言を貫き始めた。
 私に背中を向けたままで。
 もしかしてもしかしなくてもこれは。

(兵長が拗ねてる──!?)

 あまりのことに一瞬頭が真っ白になりかけた。
 が、滅多にないレアケースに嬉しいやら慌てるやら愛しいやら。
 ああ、もう怒られてもいいや。
 ソファの上で無理やり座る方向を変えている兵長の後ろから、首元に顔をすり寄せるように抱きしめた。
 ごろごろと懐くように擦り寄っても払いのけられないのをいいことに、更に強く抱きしめる。
「嫌なわけないじゃないですか」
「……」
「私は兵長に触られたらどこだって嬉しいです」
 さっきは兵長が意地悪するからあんな風に言っちゃっただけです。
「……どうだかな」
「ほんとですよ?」
 ようやく言葉を返してくれた。
 そのままぎゅうぎゅうとしがみつく。
「……オイ」
「はい?」
 くっつくなとか離れろとかだろうか。今すごく離れがたいのだけれど。
「これじゃ身動きとれねえ。そっち向かせろ」
 言われるがまま腕の力を緩めると、こちらを向き直る兵長。
 そのまま正面から膝の上に乗せられた。
 バランスを崩した私をあっさりと受け止めるのは流石だと思う。

「俺に触られたら嬉しいんだったか?」
「はい……そうですけど」
 改めて言われたら何だか気恥ずかしい。
 私の答えに満足したのか、ニヤリとしか表現できない笑みを浮かべる兵長。
「ならねだってみろ」
「はい!?」
 さっきまでの拗ねた不機嫌さはどこへ消し飛ばしたのか、ニヤニヤと笑いながら「ほらどうした」などと促してくる。
 一体何がどうなっていつからそうなった。
「言えないならこのまま部屋から追い出すぞ」
 なんたる横暴か。
 だがしかし追い出すぞと言われて、どうぞなどと口が裂けても言えるはずがなく。
「うう……」
「早くしろ」

「兵長……」
 私のこと、いっぱい触ってください。
 
 ささやくほどの声で告げた私のお願いを聞いた兵長は、今日一番の楽しげな表情を浮かべた。

 結局のところ兵長に絶対服従な私は、何を命じられても従うほかないのだ。
 ──これは愛故に、である。たぶん。


end


*拗ね兵長かつ、これでも甘えている兵長


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