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「それで何で……っこんなことになってるんですか……っ」
兵長が吐露した新たなる一面を知ることができたのも束の間。
幸せな気持ちと兵長に包まれて、このままいつものようにふわふわと夢見心地になるほど触れたり触れられたりするのだと、そう思っていた。
なのに。
「昼間の仕返しに仕置きされたいって言ったのはお前じゃなかったか」
「されたいとは言ってませんし、仕返しじゃなくてお返しですし、こういう意味じゃないです!」
からかうような兵長の声は、すっかりいつも通りだ。そしてそ声は私の身体の下から聞こえてくる。
昼間無体な真似を強いてきたのは兵長だったけれど、私の逃げ方もよくなかった。兵長の腕をふりほどいてしまったのは初めてで、私なりにそれを反省して、お返しに同じことをされても我慢します──と、私が言ったのはそういう意味だ。
断じてこんな、こんな。
「上に、なんて……恥ずかしい、です……」
今日はお前が上に乗れ。
──こんな恥ずかしいことをされたいなんて、思ってはいなかったのに。
「前にもしたことあるだろ」
ないとは言わない。
けれど兵長を見下ろすこの体勢は、二人とも裸だから私を見上げる兵長から全てが見えてしまうし、何より自分で動かなければならないし、兵長のを、自分から──
「……っ」
あまりの羞恥に心臓が破裂しそうだ。
「わ、私のこと恥ずかしがらせるのが、お仕置きなんですか……?」
「いや?」
「え」
私の問いをあっさりと否定する兵長。なら一体。
「別に仕置きなんざどうでもいい。いつもと違う体勢でよがらせてぇのと、そろそろ自分から入れて動けるようにしてやりてぇのと、あとはそうだな。照れて涙目なのを見てると興奮するからだ」
「最悪です! 最低の理由です! 兵長のばか!」
「嫌いか」
「大好きですよばかぁ!」
散々罵ったにも関わらず、兵長は全く意に介さない。それどころかとても楽しそうで、しきりに早く乗れと促してくる。ひどい。
「夜中にでけぇ声出すな」
聞かれたらどうすると、こんな兵舎の外れにある部屋でどうやったって人に聞かれることがないのをわかっていて、兵長は私を脅す。
静かに、と伸ばされた指が私の唇に触れて、そうされてしまえば私は黙るほかない。
素直に口をつぐんだ私に、兵長はうっすらと笑みのようなものを浮かべて、そのままふにふにと私の唇で遊び始めた。
「ん、ぅ」
親指でなぞられただけで、ぞくぞくと身体が震える。こんな場所で感じてしまうなんて、兵長に教えられて初めて知った。
私の唇を蹂躙する指を、はくりと唇で挟み込んだ。異種返しに噛みついたらどんな顔をするだろうと想像したけれど、楽しそうに更に苛まれる気がしてできなかった。
甘く歯を立てるくらいが精々で、後は時折舌を絡ませることくらいしかできない。
そんな拙い私の仕返しにも、兵長は反応をみせた。不意にぶつかった視線はいつの間にかひどく熱をはらんでいて、早く全てを貪らせろと言っているようだった。
それなら、いつものように私を組み敷いて、めちゃくちゃにしてくれたらいいのに。
そんなはしたない想像が頭をよぎって、更に顔が熱くなった。
「今考えてること、当ててやろうか」
「や、駄目です。言わないで……!」
必死に首を振って、恥ずかしいことを言われたくないと懇願した。喋ってしまったので兵長の指は私の唇から逃げ出した。そのまま胸の辺りをくすぐって、お腹の辺りでゆるゆると肌を撫で回していた。
「やわらけぇな……これでよく動ける」
「ゃ、あ……っ兵長のと一緒にしないでください……っ」
腹筋が足りていないと揶揄されるけれど、私から言わせると兵長がすごすぎるだけだ。先程から震える脚で兵長の身体を跨ぐような体勢で居るから、見下ろしただけで兵長の鍛え抜かれた身体がよく見える──見えてしまう。
私から兵長が見えるということは、当然兵長からも全て見られてしまっているわけで──もう逃げ出したいと思いながら、それができないこともわかっていた。
「あ、触っちゃ、あ、ア」
兵長の指が私の秘部にのばされて、今触れられたら、私がどんな状態なのか全てわかってしまう──そう思って逃れようとしたのが良くなかった。
力の抜けかかっていた脚に、不安定な体勢。
バランスを崩してぺたんと腰をついてしまったのは兵長の身体の上で──つまりは。
「……すげぇな」
「やだ、やだぁ……!」
指で触れられるのも恥ずかしかった脚の間を、自ら兵長の下腹部に押しつけることになる。
堅い筋肉につつまれた場所に触れて、ぬるりと滑るのがどうしてかなど、自分でもわかっていた。
恥ずかしくてたまらない。
どうしよう、兵長はきっと、私のことを恥ずかしい奴だと思っている。消えたい。逃げたい。せめて。
慌てて体勢を立て直そうと後ろに下がる。
「ひゃ……っ」
不意にお尻に何かが触れて、びくりと身体を震わせた。
思わず後ろを振り返って──そのまま数秒固まった。
「……」
「……しょうがねぇだろ」
再び前を向き直り、思わず無言で見つめる私に、兵長はどことなく気まずげに唇をとがらせた。
「準備できてんのは、俺の方もだ」
既にかたく勃ちあがる兵長の熱。先端からとろりと先走りが垂れるのを見て、こくりと喉が鳴った。
「できるか?」
ゆっくりでいいからと促されて、頷く以外私に何ができるというのだろう。
こくんと頷く私に「いいこだ」と囁いて、兵長が私の腰に両手を添える。支えているから怖くないと、教えてくれるかのように。
「ん……っ」
ベッドに手をつきながら、少しだけ後ろに下がった。そうすると兵長の熱がまた擦れて、小さく声を上げる。とろとろと蜜をこぼしている場所にあてがうと、くちゅりといやらしい音がした。
こんな恥ずかしいことをしてはいけないと思うのに、ゆっくりと腰をゆらめかせてしまうのをやめられない。くちゅくちゅと擦りあわせているだけでぞくぞくする程気持ちがいい。なのに段々とそれだけでは足りないと思ってしまって、兵長のつるりとした先端を、少しだけ内側へ潜り込ませるようにする。
「ぁ、あ……」
くぷくぷと音を立てて、先端だけを出し入れするのが恥ずかしくてたまらない。だというのに身体がいうことを聞いてくれなかった。
兵長は先程から私の痴態を黙って見つめていて、時折目を眇めるようにして苦しそうな表情を浮かべている。
「……あんまり、焦らす、な」
「そ、そんなのしてな……っあ!」
私の腰に添えられている両手にほんの少しだけ力が込められる。今の私にはそれだけで充分で、先程よりも深く兵長の熱を迎え入れてしまった。
「あ、あ、駄目──」
入り口から少し奥、気持ちのいい場所を擦り上げられるともう駄目で、そのままずぶりと音を立てて最後まで兵長の昂りで貫かれた。
「あ、ぁ、……っ」
あつい。奥まで兵長の熱で埋められて、脚に力が入らない。怒張したそれがぐりぐりと身体の中を抉るのが、どうしようもなく気持ちがよかった。
でも、このままでは兵長に気持ちよくなってもらえない。動かなければと少しだけ腰を上げると、兵長の先端が奥の気持ちがいい場所に当たって力が抜ける。
「あ、あっ……ん、やぁ、」
「ん、そうだ、ゆっくりで……いいから」
動く度にいい場所に当たって、ちかちかと目が眩む。
──本当は、自分で気持ちのいい場所に擦り付けてしまっているのだ。それを認めるのが恥ずかしくて、気づいていないふりをしているだけで。
「……そうか、お前はココも好きなんだな」
「や、ちが、違います……っあ、あ!」
「違わない。……ああ、次からはちゃんと、っく、ココも突いてやるから安心しろ」
兵長に全てばれてしまっている。その事実に目の前が真っ赤になるほどの羞恥を感じた。それでも腰を動かすのを止められない。こんなに自分が快楽に弱いだなんて、知りたくなかった。こんなに、恥ずかしい身体をしているなんて。
「ん、あっあ、ああ、んっ」
私の動きにあわせて、兵長が突き上げてくる。好きに動いていたときよりも更に気持ちがよくて、しがみつきたいのにこの体勢ではそれが叶わない。もっと、もっと近づいて、兵長の胸板も腹筋も密着するくらいに近く。耳元で熱い吐息を聞かせてほしい。
「へいちょう、あん、っあ、きもち、きもちい……っ」
「ああ、俺もだ、っア」
「ぎゅって、だっこ、だっこが、いいの……っ」
奥まで貫かれて、強く抱きしめられたかった。
なのにこうして揺さぶられているのもどうしようもなく気持ちがよくて。自分でもどうしていいかわからなくて、それでも限界が近いということだけはわかる。そしておそらく、兵長も同じだということも。
秘裂からはぐちゅぐちゅといやらしい音がひっきりなしに聞こえて、耳からも犯されていくようだった。
「も、いく、いっちゃう、から……擦っちゃ、やだぁ」
強い快楽に涙腺がおかしくなってしまったのか、私の目からはぼろぼろと涙がこぼれおちていた。真っ赤に染まった顔と合わせたら、さぞやみっともないと思うのに、ぐい、と目元をぬぐう兵長の手のひらはどこまでも優しい。
「大丈夫だ……俺も、もう」
荒い呼吸。出したいと切れ切れに伝える兵長の声に、何度も何度も頷いた。
「あ、あ、も、だめ、ほんとに、いく、あ──!」
「……ぅ、っ」
びくびくと震える兵長の熱。
全部を注ぎ込んでほしいとばかりにきゅうきゅうと締めつけて、じわりと広がる温かさにうっとりと目を瞑った。
「ぁ……んっ」
すっかり力の抜けきってしまった私の身体を、兵長が支えて持ち上げる。
ずるりと力を失った兵長のものが抜けていくのを感じて、不満げな声を出してしまったのが恥ずかしい。
「『だっこがいい』んだったか?」
「──!」
情事の最中のうわ事を、しっかりと聞かれていた。
羞恥のあまり逃げようとしたものの、力の抜けきった身体で逃がしてもらえる筈がない。そのまま腕を引かれて、兵長の上に覆い被さるようにして抱きしめられた。
「……ん」
意地悪を言われて何か言い返そうと思うのに、やっと兵長と隙間なくくっつけたことの方に満足してしまって何も言えない。
厚い胸板も、隆起した腹筋も、どちらも私には無いものだ。それが自分の身体とぴったりくっついて馴染むのが、時々とても不思議に思う。
「……今日のも、気持ちよかったですけど……」
「ん?」
「やっぱり、いつもみたいにくっつけるのが一番好きかもしれません……」
「そうか」
こうして時々いつもと変わったことをされるのもいいけれど、やっぱりどうしても恥ずかしい。
それでも兵長に求められたらきっと次も言うとおりにしてしまう自分の姿がありありと想像できて──我ながら目の前のこの人が好きで好きで仕方がないのだと呆れてしまう。
「じゃあ、いつものもしてやろうか」
「え」
「俺はまだいけるぞ」
「いや、待ってください、私今夜はもう、ほんとに足が立たなくて」
「俺が上で腰振るんだから関係ねぇだろ」
「や、冗談ですよね? 兵長? ね?」
「……そうだな、お前はどっちがいい?」
冗談か、それとも本気か。
昼間の罪滅ぼしに、好きな方を選ばせてやろう。
兵長の突きつけた究極の二択。
身体は限界だと訴えているのに、兵長はとびきりの優しい顔なんて見せてゆるゆると頬を撫でてくるばかりか、小さく口づけまでしてくる始末で。
結局私がどちらを選んでしまったかというのは。
兵長と私だけの秘密にさせてほしい。
end
58話も最高でした……
それと、反撃の翼で披露されていた腹筋が頭から離れません
20140614