構われたがりと意地悪男


 休日の午後。ソファで本を読むリヴァイ兵長を発見した。
 よし、構ってもらおう。
 上機嫌で近づくと、こちらに気付いた兵長が一瞬だけ視線を寄越したけれど何も言わずにまた本に集中し始めた。
 完全スルーは慣れているので、勝手に横に座った。誰が座っていいと言ったとか、邪魔だからどこか行けとか言われるかなあと思ったのに、それすらなく無言を貫き通している。
 さては私が構ってほしがっているのに気付いているな。
「へーいちょーう」
「うるせえ黙れ」
 七文字だ。
「本よりも私のこと構ってみませんか」
「……」
 七文字減った。
 無視だった。
 まあいい。黙れとは言われたけど、追い払われないだけマシだった。引き続き隣に座らせていただくことにして、じわじわと距離をつめてみた。兵長が何も言わないのをいいことに、肩に頭を乗せてみる。おお。寄り添ってるっぽい。私が一方的にだけれど。
「おい」
 あ、反応があった。
「邪魔だ。用がねえならあっち行ってろ」
 早速追い払われた。
「構ってほしいです」
「俺は構いたくねえよ」
 相変わらず辛辣だった。
「珍しく兵長に何も予定がない休日なんですよーう?」
「上司の珍しい休日を邪魔するんじゃねえ」
 ごもっともだけれど。ちなみに兵長は私が邪魔をしにきてからもページを繰る手を止めていない。それだけ読書に集中しているのか、よほど私がどうでもいいのか。
「後者だ」
「心の声を読まないでください」
 さては読心術の心得が──「お前がわかりやすすぎんだよ」はい。
 因みにここまで言われても私はかたくなに兵長にくっついたままだった。貴重な兵長分を摂取できるチャンスを逃さないのがこの私である。確かに、兵長の休日を邪魔するのは申し訳ないとは思う。潔癖性のこの人が、他人の体温をすぐ側に許してくれているだけでも破格の待遇だとも思う。思うけれども。
「ちょっとだけ、恋人気取りしたかったんですよーう……」
 ぽつりと呟いた言葉に、兵長が本から目を離した。
「おい」
 しまった。怒られる。
「はいっ すみませんっ」
 正直調子に乗りました。
「……気取りじゃねえだろうが」
「は」
 言葉が出なかった。これは、都合のいいように解釈してしまっていいだろうか。兵長が、気取りじゃないって。ちゃんと、恋人だって。今、兵長が。
「兵長がデレた……!」
「三回ほど死んでくるか」
 頭をわしづかみにされた。手の動きが見えないほどの早業だった。人類最強め!
「いたいですいたいですいたいです」
 そんなにぎゅうぎゅうとしめあげると、脳細胞が悲鳴をあげて。
「ぴいぴい喚くな」
 そう言って力を緩めてくれた。そうすると兵長の手がただ私の頭に乗っているだけなので、これはこれで。
「何喜んでやがる。ド低脳でド変態か。救えねえな」
 そのままもう一度締め上げられるかと思ったら、髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜられた。喜ぶなという方が無理だ。だって、私は。
「兵長が大好きなんです」
 我ながらしまりのない顔で笑う。
「だか、らァッ!?」
 再度全力で頭を鷲づかみにされたと思ったら、強制的に下を向かされた。痛い痛い! 首が! 私の頸椎に、人類最強の力が!
「死にたくなければそのまま顔を下げてろ」
 下げてます。下げてますから手加減を。私の意識が無くなる前にどうか。
 本当だな、と念を押してようやく手を離してもらった。これはいつまでこの体勢でいればいいんだろう。
「俺がこいつを読み終わるまでな」
 それ結構時間かかりますよね!?
「どうせ下を向いているなら、膝に顔をうずめさせてもらえると「却下だ」
 ですよね。
「待てくらい躾ければ犬でもできるぞ」
 いい機会だ、と兵長は本当に読書に戻ってしまうらしい。
「お預けですか」兵長を。
「たまには我慢を覚えろ」
「わん」
「犬かてめえは」
「さっき兵長が犬でもって「──ああもう、いいからもうちょっと待ってろ」
 そう言ってもう一度髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜられた。頭が揺れてしまうほど乱暴なこの仕草は、多分撫でているつもりなんだろうと都合良く解釈して、私はご主人様の読書が終わるのをおとなしく待った。

 数十分後。
 ぱたん、と兵長が本を閉じた。すぐさま顔を上げようとして「待て」が解除されていないのを思い出してぐっとこらえる。これはかなり頑張ったのではなかろうか。褒めてくれるかな。
「褒めねえよ馬鹿。顔あげろ」
 だから心を読むのはやめてください兵長。
「嬉しそうなツラしやがって」
「嬉しいです。だって読書終わりですよね?」
 やっと私のこと構ってくれる時間ですよね?
「次の本だ」
「!?」
 あんまりだ!
「嘘だ馬鹿」
 三度兵長の手が私に伸びて。
 今度こそ私のかわいそうな頸椎が心配ですと言おうとする間もなく、気付いたときには兵長に口づけられて。
「褒美だ」
 ちゃんと「待て」できたからな。
 そんなこと言われたら、私ますます兵長にめろめろになるじゃないですか。
 そんな意地悪そうにちょっとだけ笑われたら、私。
「……もっと、ご褒美下さい」
「欲張りめ」
 そう言って頬に添えられた兵長の手に、待ちきれないと擦り寄った。


end


*もしあの場で顔をあげていたら、赤面兵長が拝めた筈


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