「ねー、あんたのことを一番見てるのは俺なんだからね。そこんとこ、ちゃんと自覚してる?」

 その気がなさそうな表情をして、視線を微塵も合わせないくせに、加州清光は愛されたくて仕方がない。本当はもっと可愛く言えたら良かった。じっと視線を合わせて上目遣いで、持てる全ての武器を駆使して大切にしてくれと訴えかけたい。そんなの、ただの自己満足だ。

「わかってるよ。清光、私のこと大好きだもんね」
「……よく恥ずかしげもなく自分でそういうこと言えるよね」

 おどけたように述べる審神者の調子に呑まれてなるものかと、清光は口を尖らせた。否定はしない。否定が、できない。せめて目だけは合わせてやるもんか。

 爪の手入れと称して審神者の部屋に居座り、リムーバーでネイルオフ。清光の知らなかった世界を教えてくれたのは審神者だ。リムーバーポットの作り方、ネイル用の美容液、化粧水や乳液にボディクリーム、ファッション誌にマニキュア。着飾って綺麗にしていることが愛される秘訣だと信じている清光に、基礎から応用まで術を与えてくれた審神者は、物理的に満たすことで心の根底にある自己肯定感を高める手助けをしてくれた。

 ひとつ満たされると、更に上位を求めてしまうのは生き物の性だ。無機物だった頃は、ただ研ぎ澄まされていれば良かった。人の子の肢体を手に入れてからというもの、清光は欲求から逃れられない。

 知ってか知らずか、近くで穏やかに口元を綻ばせる気配がして、清光はちらりと視線を向けた。

「意味わかんない。なんでそんな自信満々にそういうこと言えるわけ」
「ふふ、これに関しては自信をもって言えるし、理由もはっきりしてる。さて、何故でしょう」

 清光はことりと首を傾げた。清光が審神者のことを好きなのだと、審神者が自信を持って言える理由。整理していざ言葉にしたら、妙に意識をし始めて頬が熱い。一体どういうつもりなのだ、この人は。こちらの気も知らないで、そんなことを言うなんて。

 否、違う。審神者は清光が好いていることを知っている。知った上で、この意地悪な問いを投げかけてきた。確信犯にも程がありすぎて、照れを隠す暇もない。

 恨みがましく審神者を見ると、楽しそうに笑う彼女と視線が絡んだ。視線を合わせないなどという抵抗は、彼女の前では無意味だ。

「清光が絶対味方でいてくれるから、安心して私は私でいられるんだよ」
「……何があっても俺だけは味方でいてあげるから、主は絶対ひとりになんてならない。安心してよね」

 完敗だった。白旗をあげるが如く審神者に対する想いを口にすれば、まぶしいような深い喜びの表情を浮かべる審神者がそこに居た。

 ニコニコせずにはいられないといった様子で体を預けるように寄りかかってきた審神者と、恋人同士のように肩をくっつけて寄り添う。敵わない。彼女の余裕など壊してしまいたいのに、いつも掻き乱されているのはこちらの方だ。