自転車を漕ぎ始めて、数十分が経った頃。星が瞬く夜空を仰ぎ見て、柄にもなく賭けをした。俺が辿り着いたその時に、彼女がまだ起きているか否か。それは一見小さな賭けのように感じるかもしれないが、俺にとって今回の逢瀬は大きな意味合いが込められている。それ故に、「彼女がまだ起きている」というその一点に賭けずにはいられなかった。

(もし眠れてたら、それはそれで良いことだけど)

 暖かい布団に包まれて眠る彼女を想像して、口元が綻ぶ。ぬいぐるみを抱えてすやすやと眠る彼女の姿は、実に愛らしい。その姿を眺めるたびに、こんなにも無防備な彼女を他の奴の目に晒してたまるものかと思ってしまう。どうしようもなく愛おしくて、決して他の奴なんかに触れさせてなるものかと思う。守ってやりたく、なってしまう。一頻り想像して癒された後、俺は勢いよく左右に首を振った。違う、違う。俺は起きている彼女に会いたいのに、一体何を想像しているのか。

 全速力で自転車を漕げば、当然息が切れる。心臓がやかましく跳ね上げるのを感じつつも、自転車を駐輪場に停めて、籠の中からコンビニの袋を手に取った。

 苺ミルク、クッキー、マカロン。勢いで購入したそれらも、彼女が既に眠ってしまっていたら自宅で一人味わうことになるのかと思うと、複雑な心境に陥った。男一人で可愛らしい食べ物を夷らげるその姿は、「実に寂しい姿である」と称する以外に例え方が見つからないのだ。電話を貰った時点で、今から行くと伝えておけば良かった。失念していた。そうするべきだった。どうか、どうか彼女がまだ起きていますように。再びそう祈って、アパートの階段を登る。漸く辿りついた彼女の家の前で、一度大きく深呼吸をして。それからひと思いに、インターホンを押した。





君に触れたがる手
(彼女のことを考えれば考える程、触れたくなる)




Title:確かに恋だった