涙声だった。気遣い屋で、電話を一本掛けるにしても相手の都合を気にしてしまって、掛けるか辞めておこうか延々と悩むような女の子だ。そんな彼女が、夜更けに何の予告もなく電話を掛けてきた。

「眠りにつく瞬間、いつもハチくんのことを考えてるよ。今日ね、ハチくんの夢を見たの。起きたら隣にハチくんがいなくて、ほんの少し寂しくなったよ」

 だから思わず、電話しちゃった。夜中にごめんね。

 耳を傾ければ、彼女の口から発せられたのは寂しさと謝罪の言葉だった。彼女のことだ。十中八九、電話越しで笑っているのだろう。泣き笑い。困ったように、申し訳なさそうに、眉尻を下げて、へらりと笑っているはずだ。相手に心配をかけまいと気丈に振舞う笑顔は、彼女にとっての精一杯の強がりだ。恋焦がれた相手が夢に登場したところで、夢は夢でしかない。寝て起きれば寂しさも紛れているかと思っていたら、目が覚めたら更に寂しさが込み上げてくるといった現象が起きてしまって、戸惑っているらしかった。寂しい夜はいつだって連絡してくれて構わないのに、そこでぐっと堪えて眠りにつくという一連の流れが、実に彼女らしくて胸が締め付けられる。

 気遣い屋の彼女がこの時間に電話を掛けてくること自体稀なことなのに、珍しく「寂しい」などという本音を聞いてしまったものだから、此方まで彼女に会いたくてたまらなくなった。





泣きそうな笑顔に、
(今すぐ逢いに行こうと誓った)




Title:確かに恋だった