「私、いつも勘ちゃんの笑顔に励まされているよ」
「え?」
咄嗟にそう言われ、彼女の方へ顔を向けると、彼女はふわりと微笑んだ。
「勘ちゃんの笑顔を見てると元気が湧いてくるの」
急にどうしたのだろう?
そう思いながらも俺の顔は自然と綻んでいた。
「…なんか照れるなぁ」
「ふふ、その照れ笑いも可愛いと思う」
「可愛いの?…それはちょっと複雑だよ」
「ごめん。でも本当だよ」
「そんな、名前ちゃんの方がかわいいよ」
それは反射的と言ってもいい。
ふたり悲しくならないように
実習でミスをしたんだって。
皆の足を引っ張ったって泣いてた。
いつだったか、真夜中に学園の隅で声を殺して泣いている女の子を俺は見つけた。
背中を丸め、闇の中に隠れるように其処にいた女の子は、未だに忍び装束のままで、少し掠り傷を負っていたのが夜目にも見てとれた。
見ないふりをしてもよかっただろう。
たぶん彼女は俺には気付いていなかった。
最初はそっと離れるつもりだった。
でも、その時、ふっと前面から風が吹きつけてきて…何故だか俺は彼女の方を振り見ていた。
そしてそのまま俺は自然とその背中へと歩を進め、声をかけていた。
どうしたの?
…って、今みたいに。
「あの時勘ちゃんに話かけられた時は、正直驚いたよ」
うん、そんな風だった。
特別気配を消していた訳じゃなかったから、俺の存在に気付かない程に、きっと君の心は不安定な状態だったんだろうね。
「俺も驚いたよ。こんな所でどうしたんだろうって思った」
「…何か恥ずかしいね…今更だけど…」
照れ笑いを浮かべながら、どこか斜めへ視線を向ける名前ちゃん。
俺も別の場所を見つめた。
「…でも勘ちゃんが声をかけてくれたことは、私にとって何気なくも良い転機になったように思う。勘ちゃんが笑って慰めて、そして励ましてくれたから、私、今以上に成長出来るように頑張ろうと思えた。今日は泣いても、明日は笑顔で頑張ろうって、今はそう思えるんだ」
「名前ちゃん…」
彼女の顔を見つめる。
嘘じゃないって、その顔を見ればわかる。
今の名前ちゃんはとっても輝いてるね。
…だけども俺は考えてしまう。
俺なんかの笑顔で、何か出来たことがあったのか。
こんな表情でよかったのか…自分にはわからない。
…あの時の俺はちゃんと笑えていたのかどうかもわからない。
今のように曖昧な微笑みじゃなかっただろうか…。
「私、いつも勘ちゃんの笑顔に励まされているよ」
…その言葉に俺は不思議な気持ちになる。
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SONG:恋率方程式
曲を題材にして、夢を書いて頂きました。ちづるちゃん、ありがとう!シリアスな話が大好きなので、心が弾みました。