今日は私にとってご褒美みたいな、最高の日だった。
だけど苦手な英語がなかったわけでも、遂に友達が出来たわけでも、はたまた先生に褒められたわけでもない。じゃあ何故ご褒美なのかって、それは。

「黒尾〜まだ消すなって!俺書き終わってねーよ!」
「ハーーーン!?もうすぐ次の授業始まるんですけど!」
「ちょちょちょ、まじあと1分!あと1分待って!」
「嫌ですぅー消してなかったら次日本史だからめちゃくちゃ怒られんのは俺なんですぅー」
「うっわまじで消した!裏切者がぁああ!」
「ぶひゃひゃひゃひゃっ!しょうがねぇから俺のノート見せてやるって」
「えっ!?黒尾最高!」
「うわー調子のよろしいこと」

いやほんと、最高ですよね分かります!なんて、未だ話したこともないクラスメイトへ心の中で握手を求める。
だけど勿論現実世界でそんなことが出来るはずもない私は、教室前方で黒板を綺麗にしていくその大きな背中をジッと眺めた。几帳面なのかな、ちゃんと端から綺麗にしてるのがちょっと可愛い。

そう。今日はなんと、黒尾くんが日直の日なのだ。もう1人の子が日誌を担当しているのか、授業が終わる度に私の横を通って黒板を消しに行く黒尾くん、先生に頼まれてみんなにプリントを返す黒尾くん、黒板の日直のところに名前が書いてあって目についたからという理由でいつもより多めに当てられる黒尾くん……

この席になってから圧倒的に見る機会の減ってしまった黒尾くんを合法的に眺める機会が増えるなんて……!ほらやっぱり、私にとってご褒美でしかない。
クラス1地味な私が熱心な視線を浴びせ続けたからといって、黒尾くんにも周りにも気付かれることはない。
今日も黒尾くんの周りだけ他よりもパッと照らされたように明るく眩しくて、それは羨ましいと思うことすら私にはおこがましい気がして。

「あー……、苗字?」
「へっ」
「聞いてた?」
「え?ええ?」
「やっぱ聞いてなかったか」
「え、や、な、やく、くん?」
「ぼーっとしすぎだろ。授業中だぞ」
「授業中……」

急に降ってきた声に、弾かれたように顔を上げた。目の前には眉を寄せて、怪訝な表情で私を見つめるクラスメイト。どくどくどくどくって心臓が嫌な音を鳴らす。

授業中って、それは分かっていた。今は日本史の授業中でこの先生は教科書の内容をひたすら板書していくスタイルなので、それさえこなせば割とぼんやりすることも許される授業だ。
現に今日もこちらに背中を向けがちな先生から意識を逸らして、考え事をしていたのだから。

テーマはずばり、黒尾くんに似合う服装について。毎日これでもかというほど盗み見している黒尾くんの姿はもうバッチリと私の脳に焼き付いていて、いつも完璧に着こなす制服以外にもこんな服装が見てみたい、こんなのも似合うかも……と脳内ではセクシーファッションショーが絶賛開催中だ。
あー黒尾くんかっこいい!あ、絶対こんなの似合う!ちょっと待って、それはちょっと色気が……あああありがとうございますセクシーサンキュー!

……なんて妄想に励みすぎた私は、去年も同じクラスだったお陰で数少ない話したことがある(と言ってもほんのちょっとだけど)クラスメイト、夜久くんに気づくことができなかったのだった。

「えっと、……」
「ペアワーク。先生の独断と偏見による決定で、苗字は俺となんだけど……まさかそこも聞いてなかったの?」
「ご、ごめんなさい……」

心の中ではいつも饒舌なのにいざ人を目の前にすると途端に話せなくなるポンコツな私に、ペアワークなんて地獄の所業でしかない。それにまさかあの先生がこんなことさせるなんて思ってなかったよ!?
それでも周りを見渡せば、なるほど、夜久くんの言う独断と偏見で決まったのであろう男女ペアで皆何やら話し合っている。

私は再度夜久くんに向き直り、すると夜久くんは人の良さそうな顔でにかりと笑った。

「俺たちもやろうぜ」
「う、うん」
「俺の席の方人いっぱいいるから、ここでやっていい?」
「う、うん」

頷くしかできない私にも嫌な顔をせず話を進めていってくれる夜久くんは、宣言通り空いていた隣の席の椅子を引っ張ってきて私の席に教科書を置く。

「ここからここまで調べて纏めたやつ、来週発表だって」
「は、発表……」
「苗字そういうのあんまり得意じゃないよな?俺がやろうか?」
「い、いいの?」
「おう。その代わり、纏めるのは頼るかも」
「それは大丈夫、」

ぎこちないながらも進んでいく作業。うう、これは相手が夜久くんで良かった……!黒尾くんといい夜久くんといい、バレー部の男子って私なんかにも優しいし、こわくないし、何か初めてちゃんとクラスメイトと喋れてる気がする……ちょっと感動!

でももしここで相手が黒尾くんだったら……いやいやいや私なんかが黒尾くんとペアワークなんて、そんな贅沢!おこがましい!無理だっ!
とか、私の頭がまたトリップしかけたとき、ちょうど私と夜久くんの間を遮るように、にゅっと手が伸びてきた。

手……手?

驚いてビクンを肩を跳ねさせた私に、それから更に襲い掛かる衝撃。

「やっくーん。そっち進んだ?」
「なんだよ黒尾、邪魔すんな」

反射で見上げてしまった先、そこには先ほどまで私の脳内で半裸同然になっていた黒尾くんがいて。

「ヒッ……」
「ひ?」
「オラ、お前のせいで苗字固まっちまったじゃねーか」

ちょっと、ほんとに待って。神様でも仏様でも誰でもいい。私の視界いっぱいに映る彼が今誰を見ているのか。……どうか教えてもらってもいいでしょうか?


..どんなショーをご所望?

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