「あ、おかえり左之助」
「おう、ただいま」
いつものように短い会話を交わし、我が家に上がる。
戦乱の世が終わって大分経ち、俺らの生活も落ち着いてきた。
毎日が死との隣り合わせだったあの日々が懐かしくないと言ったら嘘になるが、それでもこうやって惚れた女と静かに暮らせるってのは、何にも変えがたい幸せなことだと思う。
「今日はご飯外で食べてきたんだよね?」
「あぁ。お、酒準備しててくれたのか」
「当たり前でしょー。左之、呑んでこようがなんだろうが、帰ってきたら絶対呑むんだから」
俺の羽織りを脱がせながらそう言うコイツは、あの頃に比べると随分女らしくなった。
その辺の男より勇ましかったからな…。
用意された酒の前にどかりと座り込むと、すぐにコイツも座って給仕してくれる。
俺がそれを一気に煽ると、何か思い出したのか小さく声をあげた。
「あ、」
「どうした?」
「そういえば今日ね、新八さんから文が届いたの。『元気でやってるかー』って」
「新八の奴、まだ生きてやがったのか」
苦笑しながら差し出された文を受け取って開くと、存外整った懐かしい相棒の字に笑みが零れた。
あんな悪態をついたものの、嬉しくない訳がない。
内容はと言えば、『あの子に迷惑ばっかかけてんじゃねぇだろうな』だの、『こっちはまだまだ暴れ足りねぇぜ!』だの、他愛もないものばかりだ。
(相変わらず、元気そうだな)
ふ、と視線を落とした先になんとも新八らしい台詞が書いてあって、思わず吹き出してしまった。
「やっぱりそこ笑ったー」
「っ、だって、なぁ?」
もう一度二人でそれを見て笑い、杯に酒を注いでもらう。
そこに記してあったのは、
『お前は、左之は、ちゃんと幸せか?』
という、なんだかんだで仲間思いのあいつらしい言葉で。
(………コイツと居て、幸せじゃないわけねぇだろ)
俺は杯を少しだけ傾けると、すぐ隣で微笑んでいる大事な大事な嫁さんに視線を移して口を開いた。
「なぁ、」
「んー?」
「…愛してるぜ」
「っ、それっ、今言う台詞!?」
「ははっ、照れんなって」
愛を伝えられる相手がいること
(それだけで、俺は充分過ぎるくらいに幸せなんだよ)
Title by Aコース
[
back]