新学期が始まるこの4月はなかなか忙しい。
新1年の担任を任されちまったから顔と名前を早いトコ一致させなきゃなんねぇし、週末にやった入学式で出された提出物の整理もしなくちゃいけねぇ。
明日2、3年生に受けさせる課題試験の問題用紙に解答用紙、答案用紙の準備は完璧だが、クラスの奴らに配るプリントを作らなくちゃなんねぇことをすっかり忘れてて、気づいたら時計は午前0時近く。
まぁ、仕事をしてる内に日付が変わるなんてしょっちゅうあることだから対して気にかけることもないが。

「っ、うあー、肩痛てーっ」

文章に詰まった所でパソコンから目を離し伸びをすると、長時間同じ体勢だったせいか、軽くパキパキと音がした。

「あとは自己紹介かなんかで埋めときゃ充分だろ…っと、電話?」

手元に置いていたケータイが震え、着信を知らせる。
どうせ左之か土方さんか、教師陣の誰かだろうと思っていた俺は、開いて表示された名前に驚きが隠せなかった。

「っ、玲!?」
『あ、こんばんはー新八センセ』

電話の相手は俺が3年間受け持ち、昨年度卒業させたクラスの生徒の藍咲玲。
『よかったまだ寝てなかったー』というほっとしたような声にどきりとしてしまったのは内緒だ。

…在学中、俺はコイツに教師が生徒に抱く以上の感情を持っていた。
まぁ、つまりはその…惚れていたわけで。
当時他のクラスの男と付き合っていたらしく、卒業を機に吹っ切ろうと思っていたのにこのザマだ。
未練がましいにも程がある。

「明日から本格的に学校始まるってのに寝てられっかよ。
また担任も持つことになったし忙しいんだぜー?」

数ヶ月前と同じ調子で言えば、玲もあの頃と変わらない明るい声で返してきた。

『やっぱりね!新八先生は次も絶対担任なんだろうなって思ってた。今度はいい子たち多いといいねー』
「ははっ、お前らみてぇなクラスだったら勘弁だな」
『とか言って卒業式の時「お前ら最高だーっ!」って号泣してたじゃん』
「う、うるせーっ!それよりこんな夜中にどうしたよ。
お前もそろそろ大学始まるだろうに」

気を取り直してそう問うと、何か企んでいるように笑い出す。
何事かと思っていると、彼女が『新八センセ、』と俺を呼んだ。

『今日は月が綺麗だねぇ』
「へ?いや、外見てねぇから分かんねえけど…」
『先生んちの前の通りの桜、散り始めてていい感じじゃん。お花見したいくらい』
「あぁ、丁度見頃だよな…ってお前何言って……」
『おっと風強いな。えーと、あーあったあった永倉さん』

その時、不意に鳴り響いたインターホンのチャイムの音。
まさか、
信じられないがタイミングが良すぎる。
俺はケータイを耳に当てたまま立ち上がり、急いで玄関に足を運ぶ。
鍵を開け乱暴に開いたドアの向こうには、

「ハッピーバースデイ、新八センセ!」

月明かりに照らされ、春風で舞い上がり、雪のように舞い散る桜をバックに、優しく微笑んでいるアイツがいた。



誰よりも早く、

伝えたかったの


(先生がいつも私のこと見てたの知ってたよ)
(その視線が他の子に向けるものとは違うってこと気づいてから、私も先生見るようになっちゃって)
(先生のせいで彼と別れたんだよ?)
(責任、とってよね)

頬を染めて悪戯っぽく笑いながらそう言った彼女を、そりゃあ責任とんなきゃなぁ、とくしゃりと笑って引き寄せた。





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