週末ということで、左之助の家に遊びに来ました。

「さのー」

夕食を終え、本を読んだりケータイを弄ったりしていた私の横でずっとパソコンとにらめっこを続けている左之に後ろから抱き着く。
一時間以上も放って置かれるのはさすがに辛い。
抱き着きついでに画面を見てみると、どうやら成績を付けているようだ。

「…平助、体育と保健の差が…」
「こら覗くな。悪ぃけど忙しいから離してくれな。後でちゃんと構ってやっから」
「…はーい」

口を尖らせながらも素直にゆっくり離れる。
左之は「いい子だな」と私の頭を撫で、またすぐパソコンに向き直った。

(…子供扱い)

このでかくて赤い人は私がもう成人したのを忘れてしまったのだろうか。
それより、今日は家に入ってからほとんど甘い雰囲気になっていない気がする。
ご飯を作っている時に後ろから邪魔されたくらいかもしれない。
そもそも、今日は左之助が誘ってきたというのにこの状況はどういうことだ。

(拗ねてやろうかコノヤロー)

たまには困らせてみてもバチは当たらないと思う。
しかし、再び真剣にパソコンを見つめている左之助を見たらそんな考えはすぐに消えてしまった。

(…コーヒーでも、淹れてやるかな)

年度末の忙しい時期に家に誘ってもらえただけでも嬉しいことだと思おう。
私は静かに立ち上がり、キッチンに移動するとお湯を沸かしはじめた。





「お疲れ様です」

そう言いながら左之の手元にコーヒーの入ったカップを置く。
一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにふっと笑みを浮かべた。

「なんだ、淹れてくれたのか?ありがとな」
「どういたしまして。
だってやることなくて暇だったんだもん。左之先生忙しそうだし」
「悪かったよ。…ちょうどいいし、休憩すっかな」

言うのが早いか成績データを上書き保存してパソコンをロックする。
そしてコーヒーを一口飲み、今まで背もたれにしていたソファーに座ると自分の脚をぽんぽん叩いた。
左之の意図を察した私は、右手に持った自分のカフェオレを零さないように彼の脚の間に座った。
途端に私の首筋に顔を埋めて抱きしめてくる左之助。
少し危険かもしれないと、左之のコーヒーの隣にカフェオレを避難させた。

「左之、くすぐったい」
「いいだろ。あー、落ち着く…」

言いつつ吐き出された息はやはり疲れを含んでいて、私がもう一度「お疲れ様」と声をかけると短く「おう」と返ってきた。

「あとどれくらい?」
「2、3クラスってとこだな」
「だったら片付けちゃえばいいのに」
「俺が玲に触りたかったからいいんだよ。せっかく家に居んのに何もしねぇなんて男が廃るしな」
「っ、馬鹿かっ!」

お腹に回された大きな手をペチリと叩くとクククッと笑いだす。
そしてするりと指を絡まされ、私ごと後ろに倒れてから口を開いた。

「…なぁ、忙しいのになんでお前呼んだか分かるか?」
「へ?」

思わぬ問いに少々間抜けな声で返し、左之を見上げる。
すると奴は空いている手で私の髪を弄りながら、

「お前が傍に居る時っつーか、玲に触ってる時が、一番疲れが取れるんだよ」

だなんて、甘ったるい笑顔とくすぐったくなるような声で言ってきた。



こんな教師で大丈夫か

「それに、仕事の後にご褒美があるって思えばやる気でるだろ?」
「黙れこのエロ教師!!」
「いって!冗談だって半分は」

こんなだけどやっぱり大好きだなんて、私は相当左之に溺れてる。





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