嗚呼、面倒臭い面倒臭い。
学校も授業も宿題もテストも進路も、家族も友達も彼氏もなにもかもが面倒臭い。

「…真面目に二次元行きたい………」

本来なら教室で黒板に向かい、先生の話を聞いていなければいけない時間帯。
馬鹿なことをぽつりと呟いた私といえば、誰もいない屋上で一人、フェンスにもたれてDSを開いていた。

最近、いろんなことが面倒臭くて仕方がない。
なんで勉強なんかしなきゃいけないのか、だとか、なんで高校卒業したら進学か就職しなきゃいけないのか、だとか。
当たり前のことなのだが、私にとっては疑問ばかりだ。
卒業後なんて、いくつかバイト掛け持ちながら自分の好きな事して暮らしてけばいいじゃないか。
そんなこと言って通用するような世の中じゃあないから、余計イライラしてくる。
嗚呼、ホントに面倒臭い時代に生まれてきてしまったものだ。

(唯一良いことと言えば、オタク文化が盛んなことか)

そんなことを思いながらイヤホンから漏れる声優さん方の素敵すぎる声に耳を傾ける。
今やっているのは大人気乙女ゲームの薄桜鬼。
毎日プレイしているが全く飽きが来ない。
むしろ、どんどん好きになっていっている。
…もういっそこの世界に入りたい。
幕末の世界は、この平和すぎるつまらない世界に比べたらどれほど素敵なのだろう。
ちょっとばかし不便だったり命の危険があったりするけれど、宿題やテストに追われることと比べれば全然堪えられる。

(現実逃避ってのはこういうことを言うんだろうなぁ)

大好きな左之さんルートが終了したところで電源を切り、立ち上がった。
どれだけ願ったって異次元になんか行けるはずもないし、しょうがないからつまらない現実に戻るとしよう。

「…っと、」

両手をを上にやり大きく伸びをした時、ずっと座り込んでいたせいかふらついてしまい、後ろのフェンスにぶつかってしまった。
………その時だ。


―ガシャリ


そんな不吉な音が聞こえたのは。

「…は?」

バランスを崩した私の身体は、外れたフェンスと一緒に空中へと投げ出される。
その後は、重力に従うだけ。

「っ、うあああぁぁぁぁぁ!!!!」

…………………あぁ、死ぬのか、私。
17年か…、思えば短かったなぁ。
どうせつまらない世界だと思っていた所だったし、ここで終わってもまぁいいか、なんて、案外冷静に考えている自分。
左之さんルートが最後の思い出ってのは嬉しいかもしれないとかまた馬鹿なことを思いながら、もうすぐくるであろう衝撃を待って目を閉じた。










(…………………あ、れ?)

どうしたのだろうか。
あれから随分経っているというのに、覚悟していた衝撃はなかなかやって来ない。
…というか、さっきよりも感じる風が強くなっている気がする。
恐る恐る目を開けてみると、眼前には、

「………は、これっ、京都!?」

見覚えのある碁盤の目の様な街の姿が、広がっていた。

(わ、たしっ、ホントにトリップしちゃったの!?)

そう思っている間にも地上との距離は縮まっていく。
…自分が着地するであろう地点には、見慣れた大好きな赤い髪が見えた。



現実逃避でこんにちは

「いったたたた…」
「…たぶん、俺のが痛いんだが」
「っ、左之さん!?」

左之さんの上に見事着地したわたしが、嬉しいようで全く嬉しくない尋問をされることになるのは、このすぐ後のこと。






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