甘えさせてくれる人




「うっし、こんなもんか」


ガレージの片隅に積み上げられた段ボールを見上げ、伝票を片手にクロウは一人満足気に頷いた。

ぐっと背伸びをしている彼にキーボードを打つ手を止めた遊星が声をかける。かたりと椅子が小さく音を立てた。


「…終わったのか?」
「おう!」


元気良く返事をし、てきぱきと商売道具を片付けていくクロウの背に遊星は抱き付いた。

突然のことではあったが、何となく予想の付いていたクロウは暴れることなく、幼馴染の腕の中でじっとしている。


「クロウ…」


甘えるように名前を呼ばれ、首筋に触れた髪の感触に、擽ったそうにクロウは目を細めて振り返る。


「…ん、どうした?」


それに応えるように、無言のまま遊星は振り向き様のクロウの額へ唇を寄せた。
きゅっと閉じられた瞼や朱に染まった頬にも順に唇を落として行く。

熱が離れていくのを感じ、クロウは様子を窺うようにそろそろと瞼を開く。
絡んだ視線に頬を紅潮させつつも、漂い始めた甘い空気を誤魔化すようにぐしゃぐしゃと遊星の頭を撫で回した。


「っ、きょ、今日はやけに甘えただな」
「クロウが構ってくれないからだ」


むすりとした、不満げな表情を隠すことなく浮かべる遊星に、乱雑だったクロウの手付きがあやすようなものへと代わった。
視線に込められた優しさは母の無償の愛に近く、それでいて恋人への恋情を孕んでいる。

クロウは子供のようにしがみついて来る遊星に苦笑を浮かべ、視界に映った時計の文字盤を見つめ、そうだと声を上げる。


「今日の晩飯はクリームシチューでも作るか」


好きだろ、と首を傾げるその仕草に遊星は目を細め、口元を綻ばせた。


「クロウが作ってくれるものならなんだって好きだ」


歯が浮きそうな台詞をさらりと言ってのけ、顔を真っ赤にさせるクロウに対し、可愛いと呟きを溢す。
案の定、彼の可愛い発言にクロウはぺちんと彼の額を叩いた。

「…とりあえず、離してくんねぇと作れねぇんだけど?」


その言葉に、遊星はぎゅうと腕に力を込めた。

おい、と上がりかけた反論を無視して、クロウの肩に顔を埋める。


「もう少し、このままでもいいか…?」

引き剥がそうと肩に伸ばされたクロウの腕から力が抜ける。
それを了承の意として受け取った遊星は更に腕に力を込めた。


「…ったく、しょうがねぇな」

ワンテンポ遅れて、クロウは抱きしめられた腕の中で苦笑交じりの溜め息を落とす。

そして、伸ばされたままだった腕を遊星の首筋に回し、恥ずかしさを隠すように彼の肩口に顔を押し付けた。




ああ、幸せだ。
この腕の中の温もりが、君の温もりが幸せを与えてくれる。
この時間、この一瞬、この全てが愛おしい。



甘えさせてくれる人
いつだって心安らぐ瞬間は君の中に


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残機切れさまにて1234を踏んだのでリクさせて頂きました!


と、とても……可愛いです(´Д`*)
甘えたな遊星と遊星の言葉に照れちゃう母さんみたいなクロウ2人とも可愛いくて、発狂してしてしまいました(笑)

素晴らしい遊クロありがとうございました!
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