愛と酸素が仕事をしない




烏の自由は奪われた。それはさながら蜘蛛の巣に捕まった蝶のようで、まあ実際は蝶のように鮮やかです可憐なものでは無いのだが、俺を睨み上げる眼があまりにも澄んでいた。


「相変わらず無垢な眼してんなあ、クロウ」
「何が無垢だ気持ち悪い。まあ、お前のその目玉よりかはましだとは思うぜ」

ニヤリと笑って言う目の前のこいつは、一応腕と足を縄で縛られているわけだが、なのにどうしてこんな余裕でいられるのか。いや、そうでもしないとこの空間を乗り切れないのだろう。人一倍気が強いこいつは、それと同等にメンタル面のカバーが弱い。一度突き崩せば壊れてしまう。それを見せないように昔もそして今もこいつは生きている。なんとも滑稽だ。

「クロウ」
「んだよ」
「ふふ、手、震えてるぜ?」

クロウの前にしゃがみ縄で頑丈に縛られた手を取り胸元に引き寄せた。引き離そうと足掻くそれは言ったとおり小刻みに震えている。

「俺が怖いか?なあ、クロウ」
「誰がお前なんか!……くそ、離しやがれ!」
「お前のそうゆうとこ、俺は嫌いじゃないぜ?昔からな」
「何、を」

反論しようとして開いた口を自身のそれで塞いだ。舌でクロウの口内を犯すと、合間合間に甘ったるい声が零れて、その声が俺の耳を犯す。

「はっ……、は、クソがっ!」
口を解放してやると、すぐにこうだ。まあ、そうじゃないとクロウじゃないし、面白くないけど。

「お前は、何がしたいんだよ!俺をこんなとこに連れてきて、遊び半分の馴れ合いがしたかったわけじゃねえだろうが!殺したいなら殺せばいい。その前に舌噛んで死んでやるからよ、この死にぞこない」

強い意志を持った双眼とその言葉が俺を貫いた。
……ああ、ああああ!やっぱり俺はこいつが好きだ!
さっきの台詞のどこにその要素があったかなんて俺だって分からない。ただ、奥底にある気持ちが高ぶって、興奮している。
クロウだ。これが、俺が欲しかったクロウだ!

「おい聞いてん……っ」

手で首を壁に押さえつけるとだんだんと力を込めていく。クロウの手はより震えを増す。

「ハッハッハ、いいぜ殺してやるよ!そしてもう二度と俺から離れられないようにしてやるよ!」

力はより強くなり、確実にクロウを死へと誘う。

「き、りゅ、うあ」

息を吸うことができないその口はそう吐き出した。助けてくれとせがむのか、それとも早く殺してくれと急かすのか。続きを聞きたくなった俺は腕の力を少し緩めて首を傾げる。

「何だよ、クロウ」
「おま、えが、どんなに、俺を、憎ん、で、殺しても……お前だけ、は後悔、すんな、よ」

硬直した。先程まで笑みを浮かべていた口元も、力を込めていた腕も、2人だけが存在するこの空気も偽りの心臓も全部、時間が止まったように硬直する。

「そした、ら、おれが、遠慮も、クソもなく、お前を恨んで、やるよ……愛してるなんて、ぜってー言って、やんね、から、な」


口元に笑みを浮かべて言い捨てるクロウは、死を目前にしているとは思わせない程の余裕を持っていた。
やはり俺はこいつが憎くて憎くてたまらない。だがそれ以前に愛おしくてたまらない。
この殺めるだけの腕では無く、過去に幾度となく重ねてきたこの口で窒息させてしまえば
お前はこの気持ちを分かってくれるだろうか。



END






あとがき
思えば狂黒は書いてるけど狂クロって書いたこと無いなーと思って。狂クロでのクロたんはひたすらに男前だといい(笑)




- ナノ -