思い人の居場所は何処

(長クロ前提クロ+遊※町長さんは出てこない)


鬼柳がサティスファクションタウンの町長になってから、月に2回のペースで手紙が届くようになった。
その手紙には3枚程の便箋に、必ず写真が一枚添われていた。ニコとウェストと鬼柳が3人が写っているものや、町の住人が写っている写真。
たくさんの写真の中で、鬼柳はとても生き生きとした顔をしていて、それを見るかぎり鬼柳は元気にやっているようで良かったと思える。
便箋いっぱいにに書かれた文面もそれを物語っていた。


「鬼柳がたまにま町に来いと手紙に書いている」
「ふん、誰があんな所など……」
「とか言って結局行くのはどこの誰だか」
「クロウ!貴様!」

クロウとジャックがいつもどおり言い合いをはじめようとした時、クロウの顔の様子を伺う。
鬼柳の手紙には町の事とこれからの事。近いうちに会いに行けそうだとかそんなことを書いているのだが、必ず最後にはクロウのことを書いている。
様子はどうだとか、体調は優れているかどうとか、寂しがっていないかとか。
それは鬼柳にとってクロウが大切な存在(逆もしかり)であるから、当然のことなのだが、クロウは鬼柳が心配する程不安定になっていないように思える。
クロウは年齢にしては身体自体小さいものの、誰よりも明るく芯が強い人間だ。
だから手紙の返事には「大丈夫そうだ」と、書いて送っている。鬼柳からは「そうか」と返事か来るものの、その次にはやはりクロウのことを尋ねるのだ。
――でも実際は違ったのだ。

鬼柳から手紙が届いて3日程経ったある日、ジャックはカーリーに連れられて出かけてしまった。アキ達はブルーノと買出しに行って居ない。
そしてクロウはブラックバードデリバリーが繁盛しているようで、朝から出たまままだ帰ってきていない。
つまりポッポハウスには俺一人。こうなるのだったらブルーノ達についていけば良かったかもしれないと、後悔にも似たそれを思いながらやることも無いので二階のキッチンに向かいコーヒーを淹れることにした。
愛用のマグカップを取り出してきて、そこにコーヒーをいっぱいに淹れる。少し喉に通してから一階に戻ろうと階段を下りようとすると、さっきまで無かったブラックバードがあった。
どうやらクロウが帰ってきたらしい。階段を下りる足を止め、もう一度キッチンに戻しクロウが愛用していたマグカップを取り出し、俺と同じコーヒに砂糖2杯を入れ、それを片手に階段を下りた。
零さないように慎重に降りていく際に、ブラックバードを見下げるクロウが目に入った。何かを考えているようにも見える。

「クロウ」
「お、あ、遊星居たのか」
「あぁ。仕事、お疲れ様」
「おお、ありがと」

クロウはうろたえながらも差し出したマグカップを受け取った。
未だ熱いそれを冷めさせるように息をふーふーっと吹きかけると、マグカップに口をつける。
クロウは「うん、うまい!」と笑って言った。そんなクロウを様子に自然に口が緩んで、弧を描く。

「そういえば、クロウ」
「んー?何だ?」
「さっきブラックバードを見て何か考えていたようだが、何を考えていたんだ?」
「え、あー、ちょっとな……」

分かりやすく動揺したのが伺える。俺から目を逸らし、苦笑する。
こうゆう時のクロウをこうさせるのはたいていあいつだろ、と予想ができた。

「鬼柳のことか」
「なんであいつなんだよ、まぁ……間違ってねえけどな」

クロウはため息をつくとまたコーヒーを一口口にする。

「寂しいのか?」
「……そんなんじゃねーよ」

そうは言いながらも、その時のクロウの表情はとても寂しそうだった。そうさせるのはきっと紛れもない鬼柳だろう。

「鬼柳なら、クロウが寂しいと言えばすぐに駆けつけるだろう」
「……」
「寂しいなら、そう言えばいい」
「そんなんじゃ、ねえんだよ……」

顔を歪めた、拳に力が入ったその姿は、何かを我慢しているようだった。

「俺はあいつに会いに来て欲しいとか思ってるわけじゃ無い。今のあいつにはあいつの居るべき場所があるんだから、俺はその居場所からあいつを連れ出すことなんかできるわけねーよ」
「クロウ……」
「あいつの居場所は、俺じゃねえよ」
「そんなことは無い!決して!」
「何でお前がそんなに必死になってんだよ」

クロウは苦笑して、いつのまにか空になったマグカップを近くの机に置いた。
そしてすべてを知ったかのような口調で、それも自身に満ちた顔で言う。


「俺は一度だってあいつの居場所になれたことなんてねーよ」



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