Addio, l'ultimo abitante

今思えば過去の話。とても昔の話のように思える。

とある一日。俺とクロウは他愛の無い話をしていた。
本当に他愛の無い、特別印象が残るわけでもない話だったのだがそれでも俺がこの話を覚えているのはその記憶にお前が、クロウが居るからだろうか。
もしそうなら、クロウ。お前は覚えていてくれてるだろうか。まあ、あまり期待はしていないが。

あの日、クロウはベッドの上で雑誌を読んでいた。決して新しいものでは無く、どこからか拾ったもの。
それにしては綺麗な雑誌だった気がする。雑誌の内容はさすがに覚えてい、が……クロウのことだからデュエル関係だろう。
黙って雑誌を読むクロウは俺が後ろから抱きしめても何も反応を示さなかった。
相手にされずいじけていた俺は、クロウの気を引ける何かを探そうと頭を働かせ、(それを作戦を考えるときに使えと言われたことがあったような無かったような)ある言葉が思いつく。
正直、これで気を引けるとは半分程度しか思えなかったが一応言ってみることにした。

「ティ アモ」
「……あ?なんだそれ」

案外簡単に反応してくれてちょっとうれしかった。
雑誌から目を離し、後ろに居る俺に目をやるあたり、さっきの言葉が気になってるようだ。
この気を逃してはいけないと思い、俺は抱きしめる力をそのままに話し始めた。

「イタリアって国の言葉で、愛してるって意味なんだよ」
「なっ……」
「あれ、もしかしてうれしいとか思った?」
「思ってねえよ!馬鹿が!」

クロウは怒鳴ると俺の鼻をつまんで引っ張った。冗談無しに痛かったことを覚えてる。
でも、その時のクロウの顔が平常時より赤かったことに、零れるくらいの愛おしさを感じた。

「……てか、そんなのどこから覚えてきたんだよ」
「捨てられた情報誌とか小説によく書いてるんだよ。で、読んでみると結構おもしろい」
「ふーん」

クロウは興味がなさそうな声で返事をしていたが、顔はそれなりに興味を抱いた表情をしていた。

「クロウも少し覚えてみたら?」
「いや、俺には向いてねーよそんなの。それに、俺は日本語だけでも精一杯なんで」
「そっか。……じゃあさ」
「ん?」

一度、クロウから手を離すと、クロウから離れてベッドの近くにあるテーブルへと近づいた。
テーブルには荒くちぎられた紙と、蓋を外したままのボールペンが転がっていた。
俺はそのボールペンを手にすると紙に一度適当に文字を描いて、インクが出るか確認すると次にある文字を書く。

「なにやってんだ?」

さっきまでベッドに居たクロウが、気になってか俺の傍に近づいて紙を覗いた。

「未来のクロウへのお手紙」
「は?手紙?なんで?」
「いつかクロウをお嫁さんにもらう時のためにさ!」

笑顔で言ったら鉄拳が飛んできて、それはそれは痛かった。主に鼻が。
でも、俺の殴られた鼻の赤さよりクロウの顔のほうが真っ赤だったことは、俺だけの秘密(きっとクロウ自身も分かってないだろから)。

「よし、できた!」

書きおわると、一つ折ってクロウに渡した。クロウは軽く口を尖らせながらも受け取ってくれた。

「俺がプロボーズと一緒に読んでやるからな!」


幸せな時間だ。そう、心の底から思えた。
はて、俺はあの時なんと書いたか。思い出そうと頭を使えば、案外簡単に思い出すことができた。

Il mio mondo è stato configurato da te
――私の世界は、あなたにとって構成されているのです。

確か、それだけ書いたはずだった。
それだけでもきっとクロウは喜んでくれるだろうと、そう思っていたから。
でも、きっとそれを言って喜んでくれる姿は一生見れない。
だって俺の世界にはもう誰も居ないから。



END







一言言うと
拾った本でこんな読み書きできたら苦労しない←
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