冷え切ったYシャツに袖を通し、身震いをひとつ。

この部屋には、朝日が差し込まない。

閉じた瞼の向こう側で、人が動く気配。
ぎし、とベッドのスプリングが軋み、ふわりと漂う薬品の香りが、今だまどろむ私に朝の訪れを伝える。
ゆっくりと眼を明ければ、ワイシャツに袖を通す恋人の姿が見えて。

この寝覚めの悪さには、まだ身体が慣れない。
長らく暮らしていた寮の、定刻どおりに開くカーテンから差し込む光の重要さが、この数ヶ月間は身に染みて感じられる。
身体を起こす気にもなれず、いつもの黒装束に身を包む彼の姿をぼんやりと視界に映す。
そんな私の姿を見て、教授はふ、と僅かに口元を歪めて。
先に行くぞ、とだけ言い残して、光に乏しいこの部屋のドアを開ける。
教授が部屋を出て行く代わりのように、事務室の冷えた空気がふわりと私の肌を撫ぜ、身体に燻っていた熱を奪い去って。
先ほどまでは二人分の温もりがあった薄いシーツの中で、私は小さく身をちぢこませた。

冬は人肌が恋しくなる、なんて、ばかばかしいと思っていたのに。
匂いや、温もり、肌の感触。
身を寄せあい、肌を重ねることの喜びを、今までに感じたことのない感情を思い知って。
知れば知るほど、求めてしまう――。

静かな暗闇に、ひとり。
重い身体を起こし、ふ、と小さく笑みを漏らして。

ずっとひとりで生きてきた貴方も、私と同じ気持ちを、抱いてくれるのだろうか。
そんなことを思いながら、床に落ちた白のそれと、真紅に染まるネクタイを、そっと拾い上げた。





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