真夜中の攻防

きい、と小さく扉が軋む音。
眠りに沈もうとしていた意識が不意に浮上し、目を開けた先に一筋の光。
暗い寝室に差し込むそれを目で伝えば、先ほどまで腕にその身を抱いていた少女の姿が見えて。

「…帰るのか?」
まだはっきりとしない頭を起こし発した声は、自分でも驚くほどにひどく気だるげだった。
恋人を起こすつもりは無かったのだろう、少女はびくりと肩を上げてこちらを振り向く。
「あ…、ごめんなさい、明日提出のレポートが終わってなくて…」
これから勉強か、とサイドテーブルの時計に目を走らせれば、既に時刻は二時を回っていて。
「何の教科かね」
「魔法史です」
こんな時間に図書館にでも行くつもりか、と眉をひそめ、重い身体をベッドから起こす。
「多少は締め切りを破っても問題あるまい」
そういうわけにはいきません、と立ち向かう少女も、自分が起き上がったことには多少怯んだようで。
随分と真面目だな、と杖を手に取り、軽く振れば、ふわりとランプに灯る柔らかな光。

「来たまえ」
小さく手招きすると、少女は躊躇いながらも素直に自分のいるベッドへと近づく。
何故この少女は何時もこう律儀なのだろうか、とも思うが、この従順な少女は何より男の感情に疎い。
少し身構えているようにも見える少女の華奢な身体を不意を衝くように引き寄せ、その額に小さくキスを落とす。

「朝まで大人しく我輩の傍にいたまえ、とはっきり言わねばならんのかね」
耳元に囁くようにそう言えば、少女の頬はほんのりと赤みを帯びる。
そのままベッドに引き込めば、口元に小さな笑みが浮かんでいるのが見て取れて。

この鈍感に見える恋人は、もしかするとわざとこうしているのかもしれない、と思い始めたのは最近のことで、真偽のほどはまだ不明である。







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