構ってべいびぃ


寒いですね、教授。

「…ああ、そうだな」

素っ気無く答えた教授は羊皮紙から目線も上げず、忙しなく羽根ペンを動かしている。
今の問いにたいした意味は無く、ただ暇だったから呼びかけてみただけ。
ぬくぬくとこたつに入っている私は寒さなどとは無縁で、向こうのデスクで仕事をしている教授もわかっていること。
そこら辺をわかってるはずなのに敢えてあっさり受け流すなんて教授は冷たいなー。

「………」

無視ですか。
あらまあこれはもう出て行っちゃおうかしら、とも考えたけど、校内に他に行く当てなんてないわけで。
そうして最初はこたつの天板に顎を置いてむっすりしていた私に、こたつの温もりが睡魔と共に襲い掛かった。
ああだめだコレは人間を堕落させる兵器だこのままでは脳みそごと溶けてしまうなんて阿呆なことをうつらうつらと考える。


その意識を急速に浮上させたのは、首に押し当てられたひんやりとした何か。
思わず悲鳴をあげて後ろを振り向けば、意地悪く笑う恋人の顔。
そのまま後ろから私を抱き上げるようにこたつの中に入ってくる教授に、私は小さく悪態をつく。

「おや、何か言ったかね」

布越しに伝わるひんやりとした感触が、より一層強く私の身体を抱きしめる。
ああ何でもありませんよお仕事お疲れ様です、と呟くと、クク、と忍び笑いが耳を擽る。
こたつの中で私の手を握り締める教授の武骨な手はやはりひんやりと冷たくて蛇のよう。
暖めてあげようと指を絡ませるも、直ぐに手を取られ、主導権は教授に奪われる。
指の一本一本を丹念に撫で上げ、体温を徐々に奪っていく動きには嫌らしさまでも感じてしまう。
やはり蛇などではない、下世話な人間の動き。

「―――、」

鼓膜を震わす囁き声が、優しく私の名を呼ぶ。
ねだるようなその声に顔を向ければ、重なる吐息。

「寒い、だったな。さっき言っていたのは」

あ、ちゃんと聞いててくれたんだ、と口に出そうとするも、身体をまさぐる指が邪魔をする。

「暖めてやろう」

教授えっちぃ、と呟けば、誰のせいだ、と笑う。

「欲情するのは貴様だけだ」



魔法薬学のレポートの採点が珍しく間に合わなかったのは、また別の話。




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