或る雪の日


一面が雪に覆われた銀世界。
ざくざくと積もったばかりの柔らかい雪を踏みしめて遊んでいた***は、後ろで突っ立ったままのスネイプをチラリと見やる。

「あ、」

驚いたような顔をした***の口元が、ゆっくりと笑みを形作る。

「……何かね」

普段から寄ったままの眉の皺を一層深くしたスネイプが、訝しげにそう訊ねる。
そんなスネイプの様子を気にするでもなく、***はニコニコしたまま黒いその姿に駆け寄った。

「ほら、息」

はー、ってしてください、と言われ、スネイプは大人しく息を吐き出す。
凍りつくような寒さの中だ。当たり前のことながら暖かな吐息は外気によって冷やされ、白く空に向かって上っていく。
それを見て嬉しそうにする***に、スネイプはわけがわからないという風に首を小さく傾げた。
と、突然***がスネイプの手を掴み、ぎゅ、と両手で包み込む。

「っ、****……」

暖かな***の指が絡みつくその感触に、スネイプは思わず声を上げる。
しかし、その手を振りほどくこともできず。

「先生の手、冷たいでしょ。芯まで冷え切ってるんじゃないかって、心配してたんです」

「何を――」

馬鹿なことを、と言葉を続けるつもりが、思わず口を噤む。
薄桃色の唇がよかった、と言葉を形作り、漏れる白い息。

「それじゃ、」

深深と降り積もる雪さえも溶かしてしまいそうな満面の笑みを浮かべ、少女は城へと走り去る。
少女の小さな背中に声を掛けることも出来ず、男は雪の中、ただ黙ってそれを見つめていた。


――頬がほんのりと熱を帯びたのは、寒さの所為だけではないようだ。






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