蓋をしていた「好き」 ただ一言「好き」と言えたらどれだけ心が軽くなるだろうか。 「藤本もそう思うだろう?」 「……。」 「おい、聞いているのか?」 「あっ!!すみません!!!もう一度お願いします!」 目の前で身振り手振りをしながら熱く語っているのは、ボンゴレファミリー晴の守護者 笹川了平である。そして、私は彼の率いる晴属性の部隊の一員つまり部下である。 常に熱く、甘えを許さず自分に厳しく、だけど優しくて仲間のことを一番に考える了平さんは、私にとって入隊当初から憧れの存在。そして、いつの間にかそれに加え好意も抱き始めた。 しかし、三年前了平さんが25歳の時に彼女がいるという噂を聞いたことがあった。今どうなっているのかはわからないが、その話を聞いてから自分の好意を表に出さないように必死だった。 諦めようと何度も考えたが、同じ属性ということもあって彼と時間を共にすることが多く、寧ろどんどん魅かれてしまった。 もう私も25歳、学生の頃のような片思いを続けるわけにはいかないと思ってはいる。 「今日の任務も終わったことだし、食堂で一緒に晩飯でも食うか?極限に腹が減っているぞ。」 ガハハハッと笑うその表情がとても好きなのに、その笑顔を見るたびに胸が締め付けられる。 皆に見せている表情と同じ……私は特別ではないことを痛感する。 私にしか見せない表情が欲しい、と欲が溢れ出る。私の片思いなのに、欲に塗れた感情が抑えられない。 「私もお腹すきました、極限にお腹いっぱいになるまで食べましょうか。」 落ち着け私。いつものように笑って。 「じゃあ、行くか。」 「……はい。」 汚い心を隠すのに必死で顔がひきつる。 苦しい。 「好き」と伝えて、自分に正直になりたい。 私こんなに苦しくなるくらい了平さんが好きなんですって言いたい。 重い。凄く重たいよ、私の好意。 ひかれちゃうかな……。 「おい!待たんか、藤本!」 「あっ……!!!」 急に手を引っ張られ歩みを止められた。 「さっきから様子が変だなと思えば、歩くのが速すぎるし、顔が強張っているぞ。どうしたんだ?」 背を向けている私の手を握ったまま、目の前に移動して私を覗き込んだ。 握られた手から体温が伝わってしまう。 それに、速くなっていく鼓動が聞こえてしまうかもしれない。 近すぎる顔に私は耐えられず、目を晒し続けた。 「どうしたんだ?大丈夫か?」 「…………。」 「まさか、具合でも……。」 握っていない方の手で了平さんは、私の額に触れた。 「……少し、熱いな。」 「そ、それはっ……!!大丈夫!大丈夫っ……。」 触れられている彼の手から逃げようとしたら、額にあった温もりが頭に移動した。そのまま優しく撫でられた。 「無理してるだろ、今日は休め。」 「む、むりなんかっ!!」 心配そうに覗き込むその表情は、よく見る表情で……あ、まただ。特別がいいなんて贅沢な。 「……。」 思いも伝えてないのに私が望んでいいことじゃない。 「やっぱり無理してるだろ。」 一つも行動してない私が期待とか欲張りすぎ。 「だ、大丈夫ですから!!速く食堂行きましょう、お腹すきましたよっ……!」 「っ…おい!!!待て!」 了平さんの手を振りほどいて、また前をすたすたと歩いて行く。 握られた手、触れられた額、撫でられた頭の温もりが嬉しくて苦しいのに、全て私だけのものにしたくてたまらない。 こんな汚い私を見ないでください。 食堂に着くまでにはいつもの私に戻るから、どうか今だけは、このまま一人で先を歩かせてください。 じゃないと、蓋をしていた「好き」が溢れてきてしまうから。 「待てと言っているだろう!」 少し離れた後ろから、了平さんの声が聞こえた。 私は、ゆっくりと歩みを止めた。 「どう見ても大丈夫じゃないだろう。」 足音が近づいてくるが振り返ることができない。 こんな「好き」が溢れそうな状態で振り返って目を合わせるなんてできない。 お願い、これ以上傍に来ないで。 「いつもの藤本と明らかに違うだろう。」 いつもの私って何? 本当は、今の私が本当の私なの了平さん。 「こっちを見てくれ…………っ!!!」 私の腕を強く引っ張って、振り返らせた。 「藤本……泣いて……いるのか。」 「え……。」 自分でも気づかないうちに涙が零れていたようだ。 急いで頬を伝う涙を拭って微笑んだ。 「な、何でもないですか……ん。」 言葉が遮られたかと思えば、唇に彼の唇が触れていた。 「んっ、りょっ了平さっ……!?んんっ。」 何が起きたのかイマイチわからず、彼の胸を押して距離を取ろうとしたが腰を抱かれまた口が塞がれた。 「んん……。」 今の状況に追いつけていない私は、とりあえず了平さんと距離を取ろうと何度も胸を押すがビクともせず、私を抱き寄せたままゆっくりと唇を重ねてくる。 そして、小さくチュッとリップ音を鳴らして、静かに唇を離した。 「……えっと……。」 聞きたいことがいっぱいあるのに、驚きが勝って言葉が出てこない。 「すまん……。お前があんな顔するから抑えられなくなった。」 「どういうこと……です、か?」 私の腰からゆっくり手を離し、一歩後ろに下がった彼は、ネクタイをキュッと締め直しスーツの皺を伸ばして私を見つめた。 「順番が逆になってしまって申し訳ないが……俺は、藤本が好きだ。」 「え……。」 「好き」、私が伝えたかった言葉が了平さんの口から聞こえた。 「泣いてるお前を見てビックリしたが、それがどうしてだか俺を好きだと言っているように見えってしまったわけだ……。」 彼の言っていることが理解できなく私は、言葉が出てこない。 「……だからだな、俺はずっと前からお前のことが好きで、それを隠していたんだが……さっきの藤本の顔が俺のことを好きだと言っているようにしか見えなくてだな……つい、身体が先に動いてしまっていた、すまない。」 「な、なんですか……それ……。」 「きゅ、急にあんなことしてすまなかった!……俺の思い違いだったか、な。」 顔を真っ赤にして、頬をポリポリとかき恥ずかしそうにしている彼を見て私は、やっと状況を理解し始めた。 「……き、ですよ。」 「え?」 「私も了平さんのこと好きですよ!ずっとずっと前から!好きで好きでたまらなくて、でもそれを隠して抑えて我慢して……ここまで来たんですよ!なのに……なによ……それ。」 「そんなに、我慢させていたのか……気づいてやれなくて悪いな。」 「こんなに嬉しくて幸せなことがあっていいんですか……。」 「ああ、いいんだ。」 了平さんは、私に近づきそっと抱き寄せた。 「好きだ、藤本。」 「私も好きです、了平さん。」 優しく囁く彼に私も頷きながら返事をした。 大人で余裕な表情ばかりを見せていた了平さんのさっきの赤面は、一生忘れない。 それに、澄ました顔をしながら彼の胸から聞こえる鼓動は、私よりも速く音を奏でていたことは私だけの秘密である。 ―END― ×
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