小説 | ナノ

3.初めての秘密





 一度、武のことを異性なんだと意識すると止まらない。

 自分との体格の差を目の前で感じ心拍数が上がる。


「雫……黒川の勘違いなんだよな?」

「……そうだよ!」


 俯いたまま返事をする。


「さっきから全然顔見てくんねーけど、何か隠してねぇ?」

「な、何も!!」


 いつもみたいに目を見て話さなきゃと思うほど挙動不審になっていく。

 どうしてここまで意識してしまっているのか自分でもよくわからない。


「……なあ?」


 その声と同時に上にあった気配が急に消えたと思ったら、視界に武が映っていた。

 ついさっきまで立っていた彼は、しゃがみ込み下から私の顔を覗き込んでいた。


「ちょっ……た、たけし!!!」

「…………。」


 真剣な眼差しで私の顔を見る彼は、何か言いたげだった。


「やっぱり何か隠してるだろ?」


 幼なじみには、何もかもお見通しというわけか。

 だけど、武も男の子だってことに気がついて今更この距離感が恥ずかしいなんて言えるはずもなく。


「何も隠してないよ……?」

「……へえー?」


 全然納得してない顔で武は、はいはいと頷いた。


「まあ、お前のことだから意地でも言わないつもりなんだろうけどな。」

「…………。」

「言わなくてもわかるけどな、顔に書いてあるから。」

「え!!?」


 武の表情は、少し悲しげで悔しそうな顔をしている。


「好きなヤツ……本当はいるんだろ?」

「え……。」


 そう言われて私は、急に思考が止まったようにゆっくりと視線を下げた。


「……好きな……ヤツ?」


 そして、もう一度武の顔へと視線を動かした。


「あっ……。」


 真っすぐ私を見つめていた武と目が合った瞬間、私の胸がギュッと握りしめられたように苦しくなった。


 私、武のこと……好きなんだ。

 知らなかった。自分のことなのに、自分の感情なのに気づいていなかった。

 幼なじみとしてだけでなく、異性として人として好きなんだ。


 さっきまでの熱量を軽く超え全身に鳥肌が立つほど、鼓動が速くなり熱くなった。


「雫……?」

「あの……えっと……。」


 初めて自分の感情に気づいた私の思考は、完全に停止。

 今何を返すべきなのか見当もつかない。


「えーーー…………っと……。」


 頭を抱えて、出てこない知恵を振り絞った。


「じゅっ、授業!!始まるから行こう!!」


 明らかにおかしい返答をしてしまったが私にはこれが精一杯の答えだった。

 繋いだままの手をそのまま引いて、しゃがみ込んでいた武を立たせた。

 このまま二人きりでいるのは、私の心臓がもたないと思い急いで教室に戻ろうと扉へ向かおうとした。


「待てよ。」


 繋がれたままの手が私の歩みを止めるように引かれた。

 そしてそのまま自分より大きな何かに包まれた。


 初めての秘密を抱えすでに大混乱の私は、更なる難題を解いていかなくてはならない。

 幼なじみのことが好きだと気づいた矢先、その彼に抱きしめられている。

 
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