屋上のドアを開けるとまだ少し冷たい春風が熱を帯びた頬と繋いだ手を撫でる。
「ねぇ武、こんなところまできて何の話?」
私に背を向けたまま黙っている彼に声をかけた。
「好きなやつ......いるんだってな?」
繋いだ手を少し強く握り、武は質問を投げ返してきた。
「好きな...やつ...?」
私は、そんなことを誰かに話した覚えもないし、好きな人がいたこともない。
「黒川がさっき教えてくれた。」
「花が?!」
さっき教室で花が武に耳打ちをしていたのは、このことだったんだ。だけど、幼なじみの武にそんな嘘を教えてどうするつもりなんだろう。
「俺の知ってるやつか?」
私に背を向けていた武がゆっくりと振り返り、歩み寄ってくる。
「知ってるやつというか......。」
じりじりと迫ってくる武に緊張してしまい、思うように言葉が出てこない。
「俺、何も聞いてないんだけどな......。」
武は、繋いだ手を少し自分の方へ引き私を引き寄せた。
互いの距離は、数センチ。
目を見れずうつむく私を武は、すぐ上から見下ろしている。
「あっ......あのさ、それっ......か、か、勘違いだよっ花のっ!!!」
熱がひかない身体といつもと違う雰囲気の武に動揺して、どもってしまう。
いつもは、こんなに近くにいても緊張しないし目を見れないなんてことはない。
なのに今は、すぐ目の前にいる武の身体の大きさや手を握る力の強さを変に意識している。
「勘違い?じゃあ、好きなやついないの?」
うつむく私の顔を覗きこんでくる。
「いっ、いないよ!!」
この状況に耐えられなくなった私は、握られた手を振りほどき、なぜか真っ赤になってしまった顔を隠すように屋上のフェンスへと走った。
しかし、武は追いかけてきてもう一度私の手を握ってきた。
背中のすぐ後ろに武の気配を感じる。
どうして私は、こんなに武から逃げたいと思ってしまうんだろう。
今の彼の行動全てに、身体が変に反応してしまう。熱く火照って、心臓の音が大きく聞こえて恥ずかしい。
ついさっきまでただの幼なじみだった君が異性に変わってゆく。