小説 | ナノ

1-14 スタート地点、帯びる熱




 新たに就いた役職、ボンゴレファミリー幹部 総指揮官……というらしいのだけど、私がこの仕事を熟すためには他属性について勉強することが必要不可欠であることを再確認した。

 受け取った書類を了平さんと共に終わらせ、その日の夜にツナのところへ持って行きそのついでに話す時間をもらった。


「属性について詳しい獄寺に教えてもらいながら仕事をするのが一番いいと思ったのだけれど、覚えるのに時間もかかるしイマイチそれぞれの特性がハッキリ理解できないんだよね。」


 私は、属性について書かれた本をパラパラと捲りながら小さなため息をついた。


「そうだよね……雫ちゃんには、大変な仕事を任せてしまったなと思っているよ。だから俺も極力、仕事がまわりやすいように協力したい。」


「ありがとう、ツナ。それで一つ提案なんだけど、空いた時間に他のチームの任務に同行させてもらえないかな?」


「任務に?」


「属性関係なく任務を行うことになったなら、それに同行して炎の特性とそれぞれの性格を肌で感じた方が覚えも早いかなと思ったの。もちろん基礎知識を学びながら振り分けの仕事もする。」


 ツナは、腕を組み目を瞑って考え始めた。


「……。」


「戦闘の任務には、参加しないから他の任務の同行の許可を……。」


「……俺は、雫ちゃんの仕事量が大幅に増えてしまうからそれ全てに賛成はできない。」


 ゆっくりと椅子から立ち上がり、私の方に歩きながらツナは言った。


「更に仕事を増やすなんて心配だよ、過労で倒れたばかりでしょう。」


「……。」


 ツナのいうことは、正論で返す言葉が見つからない。


「だから、俺から一つの提案をするよ。」


「え?」


「一旦、任務を振り分ける仕事はやめて、各属性について学んだり各部隊の個性や特徴を知る期間にしよう。基礎ができていないと、振り分けの仕事も大変になるし、同時進行だと体調の方が心配だからね。」


 私の目の前に来たツナは、「リボーンからの提案なんだけどね。」と小さな声で言い、優しく微笑んだ。


「振り分けの仕事は、手伝わなくて大丈夫なの?」


「うん。とりあえずは、みんなに手伝ってもらうことにするよ。新システム導入と新しい役職ができるんだから協力して土台を創っていかないとね。大変なことはわかっていたのに、全て投げ捨てるように押し付けてしまってごめんね。」


「そんなことないよ!私にこの役職を任せてくれてありがとう。たくさん頼ってしまうと思うけど、これから頑張るね!」


「こちらこそありがとう、雫ちゃん。」

 
 頷きながら微笑んだツナは、私をツナのデスク前まで誘導し近くの椅子に座らせた。ツナは、デスクの引き出しから書類を取り出し自分の椅子に腰かけた。

 それから二人でたくさんの任務に目を通し、私が同行する任務の日程を大まかに決めていった。


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 小一時間が経過し、内容をまとめた書類が完成した。

 各属性の守護者が参加している任務には、必ず一度は同行するようにし、トレーニングにも参加、ボンゴレ幹部で執り行う会議にも参加が決まった。


「これでだいたいは良さそうだね、あとはみんなに協力を仰いでおくよ。明日からまたよろしくね。」


「ありがとう、ツナ。」


 頭を深く下げ、私はまとめた書類のコピーを持ち部屋を出た。


 廊下を歩きながら書類を見ていると、新しい仕事がやっと動き出したという実感がわいてきた。そして、バタバタとしていた二日間の疲れを紛らわすようにその場で大きく身体を伸ばし深呼吸をした。


「こんなところで体操か?」


「!!!」


 武がいつの間にか目の前に立っていた。


「武!!」


「今ツナに呼ばれてさ、行くところ。雫のことで協力してほしいって言ってたぜ。」


「ツナ早速動いてくれてるんだ!夜なのに申し訳ないな。」


「仲間のためならすぐ動くヤツだよ。気にすんなって、俺らもフォローするしな。」


 私の肩をポンポンと軽くたたいて微笑んだ。

 武の手が触れた肩が熱くなり、朝のことを一気に思い出した。


「たっ、武もありがとう!じゃ、また。」


 赤くなってくる顔を隠すように下を向き、焦って武の横を通り過ぎようとした。


「あっ、待てよ!」


「っ!!!」


 武に腕を掴まれて立ち止まってしまった。


「朝はごめん、俺どうかしてたんだ……。ゆっくり話がしたい……ツナとのことが終わったらすぐに行くから食堂で夕飯食べて待っててくれねーかな。」


 さっきよりも低く小さな声でそう言った武は、腕を掴んでいる手にきゅっと力を入れた。


「わ、わかったからっ……早く、ツナのところへ行ってあげて……。」


 どんどん熱くなる自分の身体に耐えられなくなった私は、武の顔を見ることができないままそう言うしかできなかった。


「ああ、行ってくる。待っててくれよな?」


「……っう、ん。」


 掴んでいた手を離したと思ったらそのまま私の頭を撫でて顔を覗き込んだ。そして、私と目が合った後に少し微笑んでその手を離し、背を向けてツナの仕事部屋へと歩いていった。

 その後ろ姿を見ながら身体の熱と気持ちを落ち着かせるように深呼吸をし、書類をきゅっと胸に抱えて食堂へ足早に向かった。
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