―山本武誕生日記念夢小説―
「私、もう武の彼女やめる。」
朝、一緒に暮らしている彼女がベッドから起き上がって放った一言目がこれである。
いつもは必ず、おはようと目を合わせニッコリ笑ってベッドから下りているのに、突然耳を疑うようなことを言い出した。
しかも、よりによってなぜ今日なんだ。
今日は、4月24日。
俺、山本武の誕生日である。
昨晩、「誕生日何食べたい?」「明日楽しみだね」と話していたばかりで、喧嘩や彼女の気に障るようなことをした覚えはない。
それに、俺と彼女の雫は、幼なじみから恋人になった。
もうずーっと一緒に過ごしてきた家族のようなもので、互いの変化にはすぐに気がついていた。
明らかに昨日の雫の様子はいつも通りだった。
「え…っとさ、エイプリルフールなら……終わったけど? ……何の冗談だよ。」
彼女が冗談であんなこと言う人ではないことは、もちろんわかっていた。しかし、今回ばかりは冗談であってくれないかと願ってしまう。
「は? 冗談なわけない。私もう限界なの。」
そう言って俯きながら、ベッドから下り寝室から静かに出ていった。
「……雫!!!!」
俺は、急いで後を追い寝室のドアノブに手をかけた。
―ドンッ!!!!!―
「いでぇっ!!!!!」
開けようとした寝室のドアが急に勢いよく開き、俺は顔面を強打。
今起きている状況についていけずに、ジンジンと痛む顔を両手で押さえ、摩るしかなかった。
「いってー…………っうわっ!!!!」
立っていたはずの体は、ギシッと音をたてベッドに仰向けになり、視界に映っていた自分の手が消え目の前には、天井と雫がいた。
彼女が、寝室のドアを開け俺をベッドに押し倒したということか。
「ど、どうしたんだよ……。」
起きてから思いもよらないことが起こりすぎてパニック状態の俺には、これしか言う言葉が見つからなかった。
「武、私…………。」
どうして彼女は、こんなにも真剣で真っすぐな目で俺を見つめるのだろうか。
「わたし…………。」
そんなにためなくてもいいのに。
俺と別れたいなら、ハッキリ言ったらいいのに。
俺は、彼女の変化にならなんでも気づいてやれると思っていたのに……
「私と結婚してください!!!!!!」
ああ……言われてしまった。
これで彼女とは、さよならしなきゃ……いけな……
「はあああ?????」
「私と結婚してください!!!!!!」
雫は、目の前に一枚の紙を突き出しながら大声で二度またもや耳を疑うことを言った。
「こん……い……ん、と、どけ……。!!!!??? 婚姻届け!!!?」
婚姻届と書かれた紙には、すでに彼女の名前が書かれている。
混乱している俺には、何が何だかさっぱりわからなかった。
「さ、さっきさ……俺の彼女やめるって言ってたよな?」
俺の中で混乱している核となる部分を意を決して聞いてみた。
「言ったよ!」
なんでにっこり笑って答えるんだ。
「私、武の彼女やめて、妻になる!!!」
「…………ん?」
「だーかーらー!!!」
雫は、手に持った婚姻届を俺の胸の上に置き、空いた両手で俺の頬を優しく挟んだ。
「!!!!!!」
彼女からキスを落とされ、目を閉じた。
ゆっくりと唇が離れていくのを感じながら、薄っすらと目を開けていくと天使のように微笑んでいた。
「愛してるの。彼女でいるのはもう限界、あなたの妻になって本当の家族になりたいの。」
「雫……。」
「えへへ。」
照れくさそうに笑う彼女がとても愛おしく、絶対に離したくないと思ったんだ。
「普通、男が言う台詞だろ??」
「えー? …………あっ。」
さっきまで起きていたことに何も追いつけず答えを出すこともできなかった俺なのに、今はもうすっかりそんなことも忘れて上に跨っていた雫を引っ張って逆に押し倒してやった。
「俺も愛してる。俺と結婚してください。」
「!!!!!」
俺は、少しずつ涙が溢れていく彼女の目を見ながらニッコリと笑った。
「もちろんです。……よろしくお願いします。」
その言葉を聞き終える前に彼女の背中に腕をまわし、強く抱き寄せた。
「誕生日おめでとう、武。サプライズは、喜んでもらえたかな?」
「!!!!!!!!!」
耳元で小さく囁いた彼女に、俺は勘弁してくれと更に抱きしめ彼女の耳元に口を近づけた。
「サンキューな。最高の誕生日だぜ。」
こうして、幼なじみから恋人になった俺達は、夫婦となり、本当の家族になったんだ。
―END―