ボンゴレファミリー総本部が襲撃される中、極秘のルートで日本へとやってきた。10代目ファミリーが暮らしている並盛へ訪れるのは、9代目が巻き込まれたあの事件以来であった。
並盛への訪問は、あまりにも急だったもので彼らの顔や住所など個人情報を持たずに来てしまった。かろうじて、彼らの名前だけは記憶に残っているのと、あの有名なヒットマンのリボーンさんがいるということだけは知っている。
「まぶしっ……。」
朝日が昇り、半日の移動で疲れた私の身体を癒すかのように光が照らしはじめた。その場で立ち止まり、両腕を上にあげて背伸びをした。
「んー……っと、これからどうやって10代目ファミリーを探そうかな。」
ゆっくりと両手を下ろし、朝日に照らされた指輪を眺めた。
「急がないと9代目とみんなが…………あ、れ?」
見つめていた指輪から朝日とは別に、微弱だが金色の炎が出ているのが見えた。
急いで太陽に背を向け、指輪を自分の影へと連れていきもう一度確認するとその炎は揺れていた。
「自分で出したわけじゃないのに……どうして?」
炎を見つめているとなぜか誘導されるかのように足が動き出す。それに合わせて炎が少しずつ大きくなっていった。
そして、身を委ね歩いて行くと小さな公園に辿り着いた。
「ここに何が……。」
公園を見渡すと一人の少年がバットを持ち素振りをしていて、それ以外に気になることはなかった。ここに誘導されたような気がしたけど、気のせいだったのだろうか。
「ん?なんだ?勝手に炎が出てきたな。」
野球少年が気になることをつぶやいたのが聞こえて、もう一度彼に視線を動かした。
「あ……。」
すると、彼の首にかかっているネックレスから青い炎が少し溢れていた。
あの綺麗な青は、鎮静の性質を持つ雨の炎。
それに、あのネックレスの形は、タルボが10代目とその守護者のためだけに作ったとされるボンゴレギアの一つに間違いない。
私の指輪の炎は、10代目ボンゴレファミリーのもとへと案内してくれていたのだ。
「あの!すみません!」
小走りで歩み寄り、彼に声をかけた。
「ん?」
彼は、声に反応し、ネックレスから私の方へと視線を動かした。
「イタリアのボンゴレ総本部から来ました。雫と言います。ボンゴレ10代目ファミリーの雨の守護者、山本武さんですよね?」
確証を得ている私は、躊躇なく問いただした。
「ああ、そうだぜ。ボンゴレの人がイタリアから何の用だ?」
「10代目候補の沢田綱吉さんに今すぐお会いしたいのですが、どこにいるのかわからなくて……。」
「ツナの知り合いか?それなら俺が案内するぜ。」
山本武さんは、笑顔で答えてくれた。
「ありがとうございます。」
「じゃあ、行くか!朝早いから寝てるだろうけどな、急いでんだよな?」
初対面で素性も詳しく明かしていない私をすんなりと受け入れ、疑う素振りもない。なんて穏やかで不思議な人なんだろう。顔を合わせてからずっと笑顔を見せている。
彼の横を歩きながら、横目で姿を確認する。まさか、こんな爽やかな野球少年が次期ボンゴレファミリーの雨の守護者だとは想像していなかった。
「あ……。」
「ん?なんかあったか?」
「傷……たくさんありますね。」
彼の顔や袖を捲った腕にはたくさんの傷があり、絆創膏も貼られていた。
「ああ、大したことないぜ。」
9代目から話は聞いていたが、つい数日前まで10代目ファミリーは、虹の代理戦争を行っていたらしい。その時の傷らしきものが痛々しく残っている。
「ちょっといいですか……。」
彼の腕を引き、歩みを止めさせた。
「なんだ?」
ゆっくりと目を瞑り、掴んでいた手を離して胸の前で祈るように組んだ。指輪から炎が溢れてくるのを感じながら目を開き深く深呼吸をして手に炎を纏った。
「見たことねー色の炎だな……って、おい!」
炎を纏った手で彼の腕を優しく撫でた。
「驚かせてしまってすみません、安全な炎なので安心してください。」
「なっ、なんだ?」
「きっとこの傷ならこれのくらいの炎圧で治せるはず……。」
9代目を救った時のように、全身を包み込むほどの炎を出せば一発でこの程度の傷なら治せるが、騒がれている中で使用するにはリスクが大きすぎる。
「傷が少しずつ消えている?」
「今、完全に消すことはできませんが明日には消えていますし、痛みもなくなります。」
「晴の炎とは、なんか違う感覚だな……それに色が金……。」
不思議そうに見つめる彼を尻目に、次々と見えている限りの傷を癒していく。
「あっ……もしかして、治癒の女神の後継者……か?」
「ッ……。」
「治癒の女神」というワードに身体がびくりと反応し、息をのんだ。
「そ、そうです……ッ!!!?」
イエスと答えた瞬間に彼は、私の腕を引き走り出した。
「どうして早くそれを言わなかったんだ!ツナのところに急ぐぞ!!!」
「ちょ、ちょっと!!!」
焦った表情を見せた彼は、私の言葉も聞かずにそのまま走り続けた。