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1000の数字を利用して




―1000hit記念夢小説―


「ん。」


 目の前で唇を少し尖らせながら私の目を見てキスを求めてくる仕草をする彼は、幼なじみの山本武。

 大学生になってすぐに私たちは、ただの幼なじみの関係から恋人同士になり、もう2年半以上経つ。

 いつものように彼の部活が終わってから彼の部屋で一緒にゲームをしていたのだが、急にこの顔をしてきたのだ。しかも、もう何度同じことを繰り返しているのかわからない。

 私は、自分からキスをするなんて恥ずかしくてできないからさっきから全部無視しているのだが、私が黙っていると彼から唇を重ねてくる。


「……また無視か?」


 尖らせていた口をさらに尖らせ私の腕を引っ張った。


「ちょっと! 私今ゲームのとちゅ……ん。」


 大好きなゲームの邪魔をされて怒りたいところだけど、私の体は正直なようで拒もうとはしない。寧ろ、またキスされるのを期待しているようだった。

 ゆっくりと離れていく彼の唇を目で追いながら、乱れる呼吸を整える。


「これで50回目。」


「50!? っていうか数えてたの!!」


 50回も唇を重ねていたことよりも彼が回数を数えていたことに驚いた。


「今日はどうしてそんなにキスするの……?」


「どうしてって……するの……嫌か?」


 覗き込むように私を見てまた目の前で顔を止める。


「い、嫌なわけ……な。」


 私の言葉を遮って唇を重ねる。


「かわいいな、雫。」


 唇を離してすぐにそう言った。


「ず、ずるい。」


 武がふにゃっとした顔で微笑むから、身体全体が熱くなりもっと欲しいという欲が顔を出した。


 武は、私の両肩に手を添えて少し距離を離し話し始めた。


「俺らさ、世間で言う幼なじみじゃん?」


「そうだね?」


「だけど、小さい時から実は互いにずっと好きだったのに、大学生になってから知ったよな。それに、幼なじみってのはさ、近いのに一番遠くてもどかしかったよな。」


「う、うん。急にどうしたの? なんか恥ずかしいよ。」


「んー。上手く言えねーんだけどさ……もっと早く勇気出して告ってたらなってさ。もっとたくさん一緒にいられたのになって思ったんだよな。」


 少しだけ寂しそうな、悔しそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。


「それは、私も同じだよ?」


 彼の顔に手を添えて優しく頬を撫でた。


「過去は変えられないからさ、今をたくさん楽しもうと思ってさ。」


「う、ん?」


 さっきまで真剣に話していた武は、口角を少し上げながら微笑み添えていた私の手を掴んだ。


「さっきのどうしてこんなにちゅーするのかっていう話に戻るんだけど。」


 掴んだ腕を引っ張り、引き寄せた。


「今日は、俺らがつき合って1000日なんだよな。」


「え! そうなの!? 私たちそういうの祝ったりするようなカップルじゃないから数えてなかった……。」


 武の口角がどんどん上がっていくのがわかる。


「んで、その1000っていう数字を利用しようと思ってな。」


「ど、どういうこと?」


「俺が今まで我慢してた分を1000日という今日を利用して消化しようと思ってんだ。」


 その場から逃げられないように私の腰に手をまわしてきた。


「今日中に1000回、ちゅーするからな。」


「ええ!!? もう夜なのに!? しかも、1000回なんて……まだ949回あるよ。」


 私の言葉を聞いて待ってました、とでも言うようにニヤリと笑った。


「雫からしてくれたら考え直してもいいぜ。」


「無理!!!」


「返事速すぎだって! ほらっ、1回雫からちゅーしてくれたら949回しなくていいんだぜ?」


 目を瞑ってまた唇を尖らせてくる。


「…………。」


 私は、黙ってゆっくりと顔を近づけていった。

 あと、949回されるのは気が遠くなりそうだから、一瞬で済む自分からするを選択したのだ。


「…………。」


 ゲームのBGMだけが響く部屋で、何一つ音を立てずに私は、彼の唇に自分の唇を重ねすぐに離した。


「……っきゃ!!」


 座っていて部屋の景色と武の顔が見えていたはずなのに、唇を離した瞬間目の前には、武と天井が映った。


「こんな一瞬で満足すると思うか? そんな顔して誘っておいて。」


 床に押し倒され、両手を掴まれていた。


「やっぱりやめてやんねー。」


「ちょっと! さっき言ってたこととちがっ……ん。」


 リップ音が部屋中に響き渡るような激しいキスを落とされた。

 何度も何度も、少し唇を離してはまた重ねの繰り返し。

 今までの抑えてきた感情をぶつけるように。

 そして、押さえつけられていた私の両腕もいつの間にか解放され、武の背中にまわっていた。

―END―
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