―Ryohei side―
外での任務を終えてアジトに戻って来た俺は、沢田のもとへ報告に行っていた。沢田の部屋から出ると雫の仕事部屋の扉が開いたので近づいてみると雫を背負った獄寺が出てきたのだ。
「クソッ、世話の焼ける女だな。」
「タコ頭! どうしたのだ!」
「芝生頭か……。ただ、疲れて寝てるだけだ。」
「ね、寝てるだけなのか……。」
「慣れねー仕事量に加えて、バカな頭に無理やり知識を詰め込み過ぎてショートしたんだろ。まったく、馬鹿な奴だぜ。」
「そうだったのか、俺が変わろう。」
「ああ、仕事以外の面倒なんかみてられっかよ。」
獄寺の背中から雫を持ち上げ自分の胸に抱きかかえ、お姫様抱っこというやつをした。
「すまんなタコ頭、助かったぞ。しかし、スーツとはいえスカートの女性をおぶるのはやめた方がいいな。」
「んなっ! うるせーな! お前みたいなそんな恥ずかしい抱き方できっかよ!」
「まだまだ子供だな。じゃ、先に休ませてもらうぞ。」
雫を抱きかかえたまま、各守護者と側近のプライベートルームがある階へと移動した。彼女の部屋へ連れて行こうと思ったが勝手に入るのは気が引けたため、とりあえず自分の部屋に連れていくことにした。
一時間程度経過した頃に彼女がゆっくりと目を覚ましたがまだ頭がぼーっとしているようだった。
「ここは……。」
「お! 起きたか雫。具合はどうだ?」
「あ……。」
「たまたま雫の仕事部屋の前を通ったら、タコ頭がお前をおぶって出てきたから俺が変わってここまで連れてきたのだ。」
「……。」
「このまま朝まで寝ていろ。ここは、俺の部屋だ。ベッドが少し硬いかもしれんが雫の部屋に勝手に入るわけもいかないからな、我慢してくれ。」
「ありがとう……ございます。」
少し微笑んだ彼女の額を優しくなでるとまたゆっくりと目を閉じていった。
「急に環境が変わりすぎてしまったな……。すまない俺のせいで。」
俺のわがままで戦闘任務から外し、さらにボンゴレの指揮を執る役職へと就くことになって心身ともにかなりの負担をかけてしまった。ここ数日、文句を言わずに頑張ってくれた。
雫とは、中学生の時にボクシング部で出会い、昔から俺のことを先輩としてとても慕ってくれていた。いつも了平さんと呼びながら俺について回る姿がなんだか愛らしくて妹が増えたような感覚だった。
しかし、いつからか京子とは違う感情を抱くようになり俺自身困惑していた。感じたことのない彼女に対する欲というものが出てきて、このままずっと俺の近くにいてほしいとか、笑顔を見せられたり悲しい顔をされれば触れたくなってしまう。
今だって、すぐ横で眠っている雫の顔は何とも無防備で見ているだけで俺の心拍数があがるのがわかる。
最近では、自分で考えるより先に体が動くようになってきた。
「こんな顔で寝おって。」
無防備な寝顔に誘われ、彼女に覆いかぶさるように上に移動した。
「俺ももう25だ。この感情が一体何なのかはわかっている。」
少しずつ彼女の顔に自分の顔を近づけ、息づかいを肌で感じるくらいまで寄った。彼女からする甘い香りに頭がくらくらし始め、身体全体が熱くなる。
「んん……。」
「!!!」
彼女の寝返りで我に返り、急いでベッドから降りて立ち上がった。
「いかんいかん!!」
こんなことをしても泣かせてしまうだけだ、と自分に言い聞かせ髪がくしゃくしゃになるくらい頭をかいた。
その場で少し身体の熱を冷まし、彼女の寝ているベッドへと近づきしゃがみ込んだ。
「すまない。お前にとって俺は、良い先輩なんだもんな。」
静かに眠る彼女の髪に触れながら優しく頭を撫でる。すると、表情が柔らかくなり少しだけ口角があがったように見えた。
「良い先輩として在り続けなければならんな。」
小さく囁いて、俺はそのままベッドにもたれかかるように眠りについた。