ある日の昼休みに俺は、隣のクラスの女子に呼び出され屋上に来た。
こういう時は、だいたい告白をされる。俺を好きだと思ってくれてるのは、すごく嬉しいんだけど、野球のことを考えるだけでいっぱいで、断り続けてきた。
フェンス側を向いていた彼女は、俺に気づき振り返って口角をあげ、俺の目を真っすぐ見てにっこりと笑った。いつも見る女子たちの赤面した表情とは違い、なんだか目が離せなかった。
「山本君、来てくれてありがとう。」
「ああ。たしか、隣のクラスの藤本……だったよな?」
「そう。同じクラスになったことないし、話したこともないのに急に呼び出してごめんね。」
「大丈夫だぜ! んで、どうした? 俺になんの用だ?」
いつものように切り返し、俺は笑顔を見せた。すると、彼女も同じように笑い俺に一歩近づき、息を吸った。
「私のこと好きになってみない?」
「…………!!?」
こんなことを言われたのは初めてだった。彼女の予想外の台詞で俺は、すぐに言葉を返せなかった。
「どう?」
「どうって言われても……な。そんなこと言われたの初めてで驚いてる。」
「そうでしょ? あなたモテるものね、好きだと言われてばかりでしょ。」
腕を組みながら、なぜかドヤ顔で彼女は言った。
「今、告白されると思った?」
俺の心を見透かしているような目でそう言い放った。
「……。」
「やっぱりね。でも残念、私あなたのことが好きでさっきのことを言ったわけじゃないの。」
「……?」
「告白だとわかっていて付き合う気もないのに毎回呼び出しに応じ、笑顔でありがとうと言いながら野球を理由にあっさりと女子を振る。なんだか、皆の言う爽やかで優しい硬派なイメージと本当の山本君って違うんじゃないかなって興味を持ったの。」
クスクスと笑いながら俺に背を向けた。
「それでなんでお前を好きにならなきゃいけないんだ。」
少し突き放すように言葉を放つも彼女の凛とした後ろ姿から目が離せない。
「それでよく考えてみたら山本君は、野球にしか興味がないんじゃなくて、興味を魅かれる人がいなかっただけなんじゃないかなって思ったわけ。だから、誰も手に入れることのできないあなたを手に入れてみたくなったのよ。」
「なんだそれ……俺は、本当に野球が好きで…………っ!!」
俺に背を向けていたはずの彼女がいつの間にか目の前にいて、俺のネクタイを掴み引き寄せた。
鼻と鼻がギリギリ触れないくらいで彼女は止め目を見つめてくる。
「本当に嘘が苦手な人ね、こんな女初めてでしょ? 興味が湧いたんじゃない?」
急に艶やかな顔をして俺を見るものだから体が熱くなってきた。
「私は必ずあなたを手に入れてみせる。あっという間に私の虜にしてあげるから。これでもかなり自信あるんだ。」
そう言って、パッと掴んでいたネクタイを離し、俺を横切って屋上の出入り口へ颯爽と歩き始めた。
「おい、待てよ! 全然話が理解できてねーんだけど!」
彼女を追うように視線を出入り口へと動かしたがもうそこにはいなかった。
彼女がどうして自分に興味を持ち手に入れたいと思ったのか聞いてはいたが、突然のことで理解が追いつかず混乱していた。
しかし、俺の中で彼女の表情や姿勢だけは鮮明に残っていた。
そう、俺は、たった5分で彼女に恋をした。
―END―