雪がしんしんと降り始め辺り一面が真っ白になった。
私は、夏に野球部のマネージャーを引退し、今は大学受験に向けて勉強をひたすらする受験生となった。
そして野球部は、オフシーズンになり校内で基礎トレーニングが主な部活内容となっているらしい。私は、放課後に教室で勉強をしていたのだが、捗らないため息抜きに野球部の様子を覗きに来てみた。
「あ!! 雫先輩!!」
私の姿を見つけてすぐに駆け寄ってきた彼は、今野球部のキャプテンを任せられている二年生の山本だ。人懐っこくて、私が野球部にいた頃もよく慕ってくれていた。
「山本、がんばってるね!」
「はい! 見に来てくれたんですか!?」
「うん、みんなちゃんとやってるか監視しに来た!」
「うわー!」
「冗談冗談! 勉強の息抜きにね!」
「え! もしかして、教室で勉強してるんすか?」
「そうだよー。」
私がこう答えると、山本は尻尾を振りながら喜んでるいぬのように目を輝かせ始めた。
「もうすぐ部活終わるんで、先輩の勉強が終わったら一緒に帰りません?」
「いいけど、今日やるって決めたところまでやってから帰るって決めたから、待たせることになるけどいい?」
「いくらでも待ちますよ!」
満面の笑みの山本は、部活が終わり次第私の教室に来ると言って部活に戻っていった。
後輩にこんなに慕われるのは、悪くないなと思いながら私は教室へと歩き始めた。
あれから30分くらい経った頃に教室に近づく足音が聞こえた。
「雫せんぱいっ!!」
またニッコリしながら山本が現れた。そのまま私の目の前の席に荷物を置き、椅子の向きはそのままで山本は私の方を向いて座った。
「先輩ってどこの大学目指してんすか?」
「私は、並盛じゃない遠いところかな。」
「え!! なんで!!」
「んーなんとなく?? やりたいことを探すために知らない町に行ってみようかなって思ったの。」
「へぇー。」
彼は、腕を組みながら目を瞑り何かを考え始めた。そして、私はその邪魔をしないようにと勉強を再開した。
うーんと小さく唸りながら必死に考えている山本が少し可愛く見えた。
そういえば彼とは中学も同じで、その時からよくモテていた。たしかに、背も高くて顔も整っているし、明るくて優しくて誰にも分け隔てなく接しているからわからなくもない。
だけど私にとっては、可愛い後輩君なのだ。弟のような存在で恋愛対象として見たことはない。
「先輩? 俺の顔そんなに見て、なんかついてます?」
「あ! ごめんごめん! 綺麗な顔してるなと思って見とれてた……なーんてね!」
笑いながらまた視線を机の上の問題集に戻した。
しかし、山本は、組んでいた両腕を背もたれに乗せてその上に顎を乗せ上目遣いで私を見始めた。
「雫先輩って彼氏ずっといませんよね? 好きな人とかいないんすか?」
「どうしたの急に。私のこと聞いても何の得にもならないわよー。」
私は、顔も上げず手を動かしながらそう答えた。
「ふーん……。俺は、ずっと好きな人がいるんすよ!」
「そーなんだ! 山本に好かれる子は幸せだねー。」
「反応それだけっすか?」
「えー? 私、恋愛とかしたことないからあんまり聞いてもピンと来なくて盛り上がらないのよー。」
「…………。」
黙る山本を気にせず問題を解き続けていると、シャーペンを持っていた右腕が掴まれたいた。
「何? どうしたの?」
「さっきから、よーとかねーとか全然興味ないような話方するんすね?」
「え、ごめん! ……怒ってる?」
腕を掴む力は強く、私を見る視線が少し痛い。
「あの!」
山本が大きな声を出した。
「なに…………んっ!!?」
私が返事を返してすぐに唇に熱を感じた。近すぎるくらい目の前には、山本の顔があった。
私の唇に山本の唇が重なっていた。
「…………。」
突然のことで何が起きているのかわからず言葉も発せずにいた。
山本の顔が少しずつ離れていき15センチ離れたところで口を開いた。
「雫先輩は、鈍感にもほどがある。俺がずっと先輩にくっついて行動してきたのは、好きだからなんだよ!」
「……。」
「可愛い後輩を演じて雫先輩の視界に無理やり入って、俺を好きになってもらおうとしてたんだ! なのにどんどん俺のポジションは、弟みたいになっていって全然気づいてくれなかった!」
耳まで真っ赤になりながら私に気持ちをぶつけたきた。
「雫先輩が好きだ! こうでもしないとわかってくれないと思って……ごめん、無理やりして。」
さっきまでの勢いがなくなり、しゅんとし始めた。
そして私は、だんだんと今起きていることを理解し始めてきた。しかし状況を理解した私は、山本が私を好きだったことや突然キスをされたことに対してなんの驚きもなかった。まるで、自分は前から知っていたかのように、こうなる時が来ることをわかっていたかのように冷静だった。
ずっと前から気づいていたけど気づかないふりをしてきただけかもしれない。彼の気持ちにも私の気持ちにも。
いや、もしかしたら、彼の気を引くためにわざと気づかないふりをして、自分だけを見てもらおうとしてたのかもしれない。
「告白する時は、敬語じゃなくなるんだね。」
私は、クスッと笑いながら山本の頭を撫でた。
「なんで、そんなに普通なんすか。」
「ん? それはね……」
私は、山本の唇にもう一度唇を重ねたあと耳元で囁いた。
「ずっと、全部知っていたからよ。私もあなたが好きだから。」
―END―