小説 | ナノ

1-8 動き始める男




 了平さんの側近からボンゴレの指揮を執る立場となった私は、その後ツナから今後の仕事内容について説明を受けた。ボンゴレで行う仕事全てに目を通し、誰にその仕事をさせるかを決めて、各守護者へと内容を渡すというもの。それに加えて、それらの仕事の進行状況や結果の報告も受けることになる。ツナが行っていた仕事の補助をするような形だ。


「私、晴の守護者に付いていたから、他属性のことあまり知らないのだけど、この役割を果たせるかな?」


「そうだよね。だから今この3人に話していたんだけど……。」


 ツナが獄寺、武、了平さんのことを見てもう一度確認をとるように頷き、私の方に向き直した。


「仕事が慣れるまでは、3人に助けてもらおうと思うんだ。本当は、雲雀さんやランボやクロームにもお願いしようと思ったんだけど、親しい3人だけの方が仕事もしやすいだろうから……どうかな?」


「うん! その方が助かるよ、ありがとう!」


「俺は、10代目のためにやるんだからな。調子に乗るなよ。」

「雫と仕事できるなんて楽しみだな!」

「俺がそのままずっと手伝ってもいいんだがな。」


「3人が交代で手伝ってくれるから、属性の特徴や今まで受けてきた任務の内容とか詳しく聞いて覚えてくれるとこれから一人でもできるようになると思うからがんばってみてね!」


「うん!」


「獄寺君とお兄さんは、これから俺と任務があるから最初は、山本にお願いしたからよろしくね。」


 武が近づいてきて、手を差し出してきたから握手を交わした。


「よろしくな、一緒に仕事できるのが嬉しいぜ。」


「よろしくね!」


「じゃ、俺たちはもう行くね。わからないことがあったらいつでも聞いてね。」


 ツナと獄寺が会議室を出たが、了平さんは私の目の前に来た。


「これから、大変だと思うが応援してるぞ。いつでも俺のところに来ていいからな。」


 了平さんは、また私の頭を撫でてから会議室を後にした。

 会議室は、武と私の二人になり、とても静かになった。声をかけようと武の方を見ると武は、会議室のドアを見つめていた。


「武?」


「ん?」


 そう言って武は振り返り、私を見つめた。その表情はなんだか大人っぽくて違う人のようだった。ゆっくりと私に手を伸ばし、頭を優しくなでてきた。


「な、何?!」


「撫でたかっただけ。」


 ハハッと笑いその手を離した。

 大人な表情を見せたあと急に撫でられて、いつものように笑う彼の姿を見て少し顔が熱くなった。


「その顔……。」

「え、何?」


「……何でもねーよ。必要なもの取りに行くから俺の仕事部屋に行こうぜ。」


 武についていき雨の仕事部屋へと向かった。


 そこは、了平さんの部屋とは違い、和室となっていて懐かしい香りでいっぱいになっていた。

 部屋に置いてある棚の上には、懐かしい写真がたくさん並べられていた。


「うわ! この写真懐かしい!!! あ、これも! これも!!」


 私と武が写っている写真ばかりで昔のことを思い出し、懐かしさに浸っていた。


「昔は、こんなに写真撮ってたのにな。ここに入ってからは、会うことも少なくて今日が久しぶりだったよな。」


「そうだね。こうやって一緒に仕事できることが本当に嬉しいよ!」


「俺は、雫がずっと笹川先輩と一緒にいるの見てばっかりだったからな。」


「ずっと一緒にいたのは、了平さんの側近に選ばれたからね。守らなきゃ、って感じで?燃えてたのよ。」


 私は、写真を見ながら笑って話していた。


「これからは、俺のことも見てくれるか?」


 気づけば武は、写真が置いてある棚に手をかけ私の真後ろにいた。


「こっちむいて。」


「……。」


 低いトーンで言う彼に私は、黙って振り返った。

 斜め上から落とされる視線は、真っすぐで逸らすことができない。また、違う人を見ているような感覚だ。


「な、に……。」


「俺、このチャンス逃さないから。昼は冗談って言ったけど、今は違う。俺のこと男としてちゃんと見てくれよ?」


「ど、どういうこと?」


 近すぎる武の顔とせっけんの香りが妙に恥ずかしくなる。


「そのままの意味だって。」


「わ、わかったから! 近いよ!」


 武の胸を押し距離をとった。


「……ハハッ。」


 武は、嬉しそうに小さく笑った。


「その反応、意識されてんだな、俺。」


「ちょっ、からかってんの!?」


「違うって!」


 さっきまでの空気が一変し、昔に戻ったように、そのまましばらく二人で笑って話をした。


 理由はわからないが彼に意識をしてくれと言われて、私は、いつの間にかしっかりと彼を男の人だと意識して話すようになっていた。

 変わらずにいることに安心感を抱いていた私だったが、今では変わっていくことが少し楽しみなような気がしている。

 自分が置かれている環境や仕事が変わるとともに、幼なじみと先輩との関係も少しずつ変わってきている。私は、これからしっかりと自分の気持ちに向き合って、自分がどうしていきたいのかを理解して行動しなくてはならないのだなと思った。
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