「雫ちゃん、お兄さんから聞いたよ。俺も賛成だよ。」
「俺もそうしてほしいぜ。」
書類を届けにツナのもとへ行くとそのまま会議室まで連れていかれ、私が今後戦闘任務から外れることについて賛成か否かを求めているところである。
どうでもいいというように口を閉じる獄寺と雲雀さんに対し、賛成と声をあげるツナと武がいた。ランボとクロームもその方がいいと賛成の様子であった。
「これで正式に決まりだな! みんなお前を危険な目に合わせたくないという気持ちがあるということを忘れないでくれよ。」
了平さんが、安堵の表情で私に告げた。
「皆さんの気持ちを受け取って、しばらくは、室内業務に専念します。しかし、皆さんに危機が訪れるようなことがあれば、私は、戦場に戻らさせていただきます。」
「頑固な女だな、決まったことなんだからここで大人しくしてろよな。」
この話に飽きたような顔をして、そっぽを向きながら獄寺が言った。
「わかってるわよ!」
「獄寺君なりに心配してくれてるんだよ。」
隣に立っていたツナが微笑みながら私の肩にポンと手を置いた。
「じゃっ、この話はここまで! 会議の本題に入る。」
ツナの表情が一気にボスらしくたくましい顔つきへと変わった。
「では、私は通常業務へ戻りたいと思います。失礼します。」
「雫ちゃん、ちょっと待って。君にもこのまま聞いてもらいたい。」
「……はい。」
私は、了平さんの隣へ移動し、椅子に腰かけた。
「今までそれぞれの炎の属性に分かれて、任務やトレーニング、様々な業務を行ってもらっていたんだけど、これからは、属性関係なく混ざってそれぞれの力を活かしながら支え合って取り組んでもらいたい。」
ツナは、これからの組織の在り方をまとめた資料をみんなに配った。
「今日までは、各属性の士気を高めてもらい、個々のレベルアップを図ってきたと思う。だから、これからは、ボンゴレ一丸となって一層いいチームにしていきたいんだ。」
「僕は、群れるつもりはないんだけど。」
「……わかっています。雲雀さんには、今までと変わらないスタイルでお願いしたいと思っています。」
群れることが嫌いな雲雀さんは、敵意剥き出しだった目を瞑り大人しくツナの話を聞き始めた。
「全体の動きは、今までと大して変わりはないんだけど、属性関係なく任務に行ってもらったり、トレーニングしてもらったりと交流が増えるっていうことを覚えておいて。変わらずみんなには、それぞれの部下たちに任務を振り分けたり、その指揮を執ってもらう。これからは、他属性の部下の指揮も取ってもらうからよろしくお願いします。」
「さすが、10代目!」
「これから、もっとワクワクすることが増えるな!」
「そしてもう一つ、俺からみんなに提案があるんだ。」
ツナは、そう言い私の方を見た。
「この新しいシステムを導入することによって、組織全体の動きを見る人が必要になると思うんだ。」
「10代目が今まで通り行うのではないんですか?」
「俺は、もちろん今までと変わらずみんなをまとめていきたいと思っているんだけど、一人では、手に負えなくなってしまうかもしれない。」
「右腕の俺がお手伝いしますよ!」
「それではダメなんだ。守護者の皆には、それぞれしてもらわなくてはならないことが山積みなんだ。忙しくて、獄寺君が倒れてしまう。」
「じゃ、じゃあ、誰がやるんですか?」
獄寺の方を見ていたツナがまた私の方を向いた。
「…………雫ちゃんに頼みたいと思っている。」
「え、私!?」
私だけではなく、皆が驚き開いた口が塞がらない。
「戦闘任務から外すことになってすぐにこんなお願いをして申し訳ないんだけど、俺と一緒にボンゴレをまとめてほしい。そんなに重く考えなくて大丈夫だから、俺の手伝いをしてほしいんだ。」
「私なんかに務まるのかな……。」
「リボーンが雫ちゃんが一番ふさわしいって言ってたよ。俺も雫ちゃんだからお願いしたいんだ。」
「ツナ、それは、外での仕事はあるのか?」
「主に室内だけど、外に行かなければならない時があるかもしれない。でも、戦闘はさせないから安心してほしい。」
「それなら安心だな。俺は、雫がそれをやることに賛成だ。」
「武!!」
武は、私の方を見て笑って言った。
「ということは、俺の側近から外れるということになるのか?」
「平行して仕事を行うことは、かなりの負担になるのでそうなります。慣れてくればできるかもしれませんが……。」
「…………。」
了平さんは、黙り込んでしまった。
「急なことで、お兄さんと雫ちゃんには、申し訳ないんだけど、今決断してほしい。」
「……私、やります。」
戦闘で戦えない私には、この仕事が光に思えたのだ。
戦うことで、大切な人たちを守ってきた私がその術を失ってこの先どうしたらいいかわからない状況だった。この仕事を受ければ、何か違うやり方で大切な人たちを守れるかもしれないし、了平さんに甘えて生活していた自分を変えることができるのではないかと思ったのだ。
「本当にやるのか、雫。」
隣にいる了平さんが静かに口を開く。
「やりたいです。」
「ずっと俺の側近だって言ったよな?」
「……はい。だから、この仕事に就いても、側近の肩書が無くなっても私は、了平さんの一番の部下だと思っています。側近の時と変わりません!」
「…………そうだな。お前のやりたいようにやってみろ。」
了平さんは、クスッと笑って私の頭を撫でながら了解してくれた。
「じゃあ、お願いできる?」
「もちろんだよ、ツナ。私にできることなら、喜んで!」
「ありがとう。あとで、個別でこれからの仕組みについて話すね。」
安堵したように息を吐いたツナは、また真剣な表情へと変わっていった。
「これからは、俺と雫ちゃんでみんなに任務を振り分けていくことになるからよろしくお願いします。今まで俺が受け取っていた書類等もその内容によっては、雫ちゃんに渡してもらうこともあると思うから覚えておいてください。」
ツナが一枚の紙を取り出した。
「俺の隣の空いていた部屋を雫ちゃん専用の仕事部屋とするので覚えてください。」
取り出した見取り図を指さした。
「それでは、今日の会議は終わりです。お疲れ様でした。」
ツナがそう言うとみんなが一斉に立ち上がり、雲雀さんとランボ、クロームは颯爽と会議室から出ていき、獄寺、武、了平さんは、ツナのところへ近づいていき、コソコソと何かを話していた。そんな彼らを見ながら私は、ツナからの声かけがあるまで座っていた。