小説 | ナノ

1.序章




 昔、ジョット率いるボンゴレファミリーが誕生した時代に、治癒の女神と言われる一人の女性がイタリアで名を馳せた。

 治癒の女神は、晴れの炎の活性を超える回復の力を持つ金色の炎を燈し、人々に癒しを与えていた。その癒しは、疲れを癒すことから大怪我や大病まで彼女に治せない傷病はないと注目を浴びていた。
 
 彼女がいれば、永遠の命を手に入れたも同然だとマフィアの間で騒がれ、勢力のあるマフィアたちが治癒の女神を獲得するべく戦争を起こした。その結果、彼女は自分の存在があることで次々に争いが起こり、死傷者が増えていくことに耐えられなくなってしまい、自ら命を絶つことを選び姿を消したと言われている。

 その言い伝えの通り、マフィアたちが次々に伝統・格式・勢力などを子孫へと受け継いでいく中で、治癒の女神と呼ばれる人物が姿を現すことはなかった。

 しかし、ボンゴレファミリーが最大勢力を持つマフィアグループとなり、10代目候補沢田綱吉がアルコバレーノの呪いを解いた頃、イタリアでは、9代目ボンゴレファミリー内に治癒の女神の後継者が発見された。

 その噂は、瞬く間に世間に広まり、長い年月姿を見せることのなかった治癒の女神が復活したと騒がれ、勢力を持つマフィアたちがその姿を捉えようとボンゴレへの襲撃を開始していた。そのため9代目ボンゴレファミリーは、治癒の女神の後継者を守るべく、彼女を10代目ボンゴレファミリーのいる日本へと旅立たせた。

 その情報が極秘で日本にも届き、リボーンの指示で沢田綱吉とその守護者たちが治癒の女神の後継者を探すこととなった。


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 アルコバレーノの呪いを解くべく行われた虹の代理戦争では、たくさんの負傷者が出たが無事に終わりをむかえた。戦闘でケガを負ったディーノとバジルのお見舞いを終えた沢田綱吉一行は、並盛中央病院を出て歩いていた。


 「呪いも解けたことだし、次の強化プログラムに移るぞツナ。」


 真っ黒なスーツと帽子を身に纏ったアルコバレーノの一人、リボーンが口を開いた。何か企んでいるかのように、不敵な笑みを浮かべている。


「なっ!!まだ戦いが終わったばかりじゃないか、リボーン!」


 リボーンの言葉に涙目になりながら大きく反応しているのは、ボンゴレファミリー10代目候補 沢田綱吉ことツナである。リボーンの教育方法は、スパルタで一つの戦いが終わればすぐ次へと息をつく暇もないまま話が進んでいくのだ。


「さっきイタリアにいる9代目から治癒の女神について情報をもらった。」


「っ…………!!!!」


 その場にいたアルコバレーノのコロネロは、息を呑んだ。


「治癒の女神……だとコラ。」


「そうだ、あの治癒の女神だぞ。後継者が発見されたらしい。」


 話についていけないツナは、ポカーンと口を開けてリボーンを見つめていた。


「それは、敵か? 小僧。」


「いったい誰なのだ!その者は!!」


 少しの沈黙を破り話し出したのは、雨の守護者 山本武である。それに続くように、熱く声を発しているのが晴れの守護者 笹川了平だ。さっきまで二人とも笑顔で話していたのだが、場の異様な空気を感じ取り一瞬で表情が変わり、まっすぐ見つめるその視線は真剣そのものであった。


「俺、その女の話聞いたことがあります。」


 眉間にしわを寄せ、少し俯きながら話しているのは、嵐の守護者 獄寺隼人であった。治癒の女神について知っている情報を思い出しながら彼は少しずつ話し始めた。

 どんどん話が進んでいく様を見ていることしかできないツナは、立ち尽くしていた。しかし、これから先に起こる戦いを超直感が感じ取ったのか冷や汗と少しの震えが止まらない様子であった。


「ボンゴレファミリーが誕生した頃に、治癒の女神と呼ばれる女が現れたそうなんです。」


 獄寺は、治癒の女神の能力や彼女がいたことでおきた戦争、その後姿を消したこと知っているすべての知識を話した。彼女の復活に驚きを隠せないのか、動揺しているようだった。


「治癒の女神が生きてやがったとは……。」


「その後継者が今、日本へと向かっているらしいんだ。」


 リボーンは、にんまりと口角をあげツナを見上げる。


「ツナたちには、その治癒の女神を探してもらうぞ。そして、守ってやるんだ。」


「えええええ!!!??!?」


 また唐突な、と呆れながら拒否するように大声を出すツナ。


「お前に断る権利はないぞ。」


 リボーンはそう言い、帽子を深くかぶりながら深刻そうな表情を見せる。


「治癒の女神が復活したとなれば、また昔のように戦争が起きちまうんだからな。」


「…………。」


「だから、俺達のところに向かっている治癒の女神の後継者を一番に探し出して守ってやるんだぞ。」


「そんな勝手なぁ!!!」


「じゃあ、また彼女自ら命を絶たせるのか、ツナ。」


 そんなことは絶対にさせたくないツナの心情をわかってあえて強調して話すリボーンには、返ってくる言葉がわかっているようだった。

 ツナは、怖さより正義感の方が勝ってしまったのか、さっきまでの震えは止まり、こぶしを握り締めていた。


「わかったよ……彼女を探し出して俺たちで守ろう。」


「はい!!10代目!!!」


「だな!!そう来なくっちゃな!!」


「いいぞ!沢田!!!」


 ツナの言葉をすんなり受け入れ、静まり返っていた空気を払拭し気迫が生まれる。


「これでさらに10代目ボンゴレファミリーは最強になるな。」


 また、にんまりと笑うリボーンを見てツナは、彼の本当の目的はファミリーを強化することだったんだと気づいてしまった。いつものようにリボーンに乗せられてしまったのである。


「で、その後継者っていつどこに現れるんだ?」


 山本がリボーンに向かって問いかけた。


「それは、俺にもわからないんだ。近いうち並盛に到着するらしいんだが、容姿も教えてもらっていない。」


「それって、探すの凄い大変なんじゃ……。」


「並盛には、来るんだから何とかなるって!」


 項垂れるツナに肩を組み笑顔で励ます山本。それに合わせて「大丈夫だ。」と声をかける了平と「10代目、俺がいますから!」と目を輝かせる獄寺。

 過酷な戦闘のあとにもかかわらず、いつもと変わらない彼らの姿を見て、少し安堵の表情を見せたリボーンだったが治癒の女神の後継者のことを気にかけているのか、独り顔を曇らせていた。


 その後彼らは、解散し各々帰路に着いた。

 そして、次の日から治癒の女神の後継者を探すプログラムが始まった。
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