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もう二度と




 俺は今、命を狙われている。安全なところは、自分たちのアジトだけだ。

 任務のために外へ出なければならない時は、必ず護衛がついて、囮のチームも一緒に出動しなければならないことになっている。俺自身は、皆が傷つく姿を見たくないからその条件を呑まずに拒み続けていたんだ。しかし、獄寺君や山本たちに押し切られ承諾することにした。

 そして今、ある任務のために俺と護衛の雫、獄寺君と山本、お兄さんとランボの3チームに分かれて移動していた。敵に俺の居場所をバレないために、他の2チームが先陣を切って進んでいたんだ。何の反応もなく、順調に目的地へと足を運んでいた。

 護衛に選ばれた雫は、本当に強くて信頼のおける存在なんだ。友達のように気軽に話せる子で、一緒にいるとなんだか心地が良い。だからこそ、彼女を護衛にして連れてきたくはなかったんだ。だけど、彼女は、すんなり二つ返事で受け入れて、私がいれば大丈夫って笑顔でついてきた。俺は、嫌な予感がして何度も拒んだけど、結局彼女の押しに負け一緒に行くことになってしまった。

 順調に進んでいたように思えたのも束の間、俺達は敵陣に包囲されてしまっていた。


 あの時感じた、嫌な予感をなんでもっと信用しなかったのだろうか。どうして俺は、二度も自分の意志を曲げてしまったのだろうか。何かがあってからでは遅いのに、俺は、このあと後悔することになる。


「綱吉!!! 危ない!!!」


 その声が聞こえた時にはもう遅くて、俺の後ろから飛んできていた銃弾に反応することができなかった。


「っ…………!!!」


 視界に銃弾を捕らえた瞬間、俺は何者かに突き飛ばされた。今度は、見えていた銃弾のかわりに真っ赤な液体が宙を舞っていた。俺は、すぐに血であることに気がつき、飛ばせれた体を起こしながら、その血が出ている正体を確かめた。

 自分ではないことを確認してすぐに、誰のものであるかわかり、全身の血の気がサーッとひいていった。今目の前で起こった光景に衝撃を受けて、動けなくなってしまった。


「綱吉!!! なんて顔してんのよ!!!」


「……っ!!」


 目の前に立っている彼女は、俺に背中を向けたまま真紅に染まった横腹を押さえながら息を切らして俺の名前を呼んで怒鳴る。


「ボスのあなたがそんな顔してちゃ、皆が心配するし、指揮が取れないじゃない!!」


 少しずつ虚ろになりながらも、俺を叱るように話す。


「あなたがしっかりしないとッ……はぁッ……はぁッ…………」


「雫……!!!」


 俺は、彼女の方へ駆け寄ろうとした。


「来ないで!!!」


「なっ……んで。」


 大きな声と共に彼女の背中から感じる圧力に足が止まった。


「綱吉……あなたには、守らなきゃいけない人たちがいる。そうでしょ? ここは私が食い止める、綱吉は守護者たちの指揮を執って!!」


「そんなことできるわけないだろ!!!」


「これ以上……犠牲者を出したくないの。…………あなたも同じ気持ちのはずよ。さぁ!!! はやく行って!!!」


「雫をおいて、ここを離れるなんて俺にはできない! 俺も戦う!!」


「綱吉は、狙われてるの! わかってる!? そして私は、護衛なの!!! あなたを守らなくてはならないの!!」


 彼女は、少し頬が見えるくらいにこっちへ顔を動かした。


「この傷じゃ、あなたを守り切れない……。獄寺達のいる方へ逃げて……お願い。」


 少しだけ震える彼女の背中は、今までで一番小さく感じた。そして、彼女はリングから真っ赤な炎を放出し敵のもとへ飛んで行った。


「雫!!!!! 行くなッ……!!!??」


 手を伸ばし、追いかけようとしたら両腕を誰かに押さえつけられた。 


「10代目! 遅くなってしまい申し訳ありません!」


「大丈夫か! ツナ!!!」


 別れて行動していたはずの獄寺君と山本だった。事態を把握した二人は、急いで敵を倒し駆けつけてくれたらしい。


「俺達が行きますから! 10代目は、ここで待っていてください!!」


「でもっ!!」


「お前が今行って、ケガでもしたらアイツのしたことが無駄になっちゃうぜ?」


「…………っ。」


 何もできない自分の弱さに言葉が出なかった。


「必ず連れて帰りますから!!」


「先輩たちが来るまで、隠れて待っててくれよな!!」


 そう言って二人は、彼女が向かった敵陣へと飛んで行った。

 目の前で起きている戦闘から目を離すことができない。血を流しながら戦っている彼女の姿を追い続ける。フラフラしている。また、攻撃を受けている。庇うように間に入る獄寺君と山本も傷が増えている気がする。


 俺が命を狙われているのにどうして俺は無傷で、みんなが傷だらけなんだよ。

 友達と大切な人を守れないで何がボスだよ。


「おい!!! やめろおおおおお!!!」


「!!!??」


 獄寺君が叫んだ。俺はその声で急に現実に引き戻されるような感覚になった。

 彼の声が聞こえる方に目をやると、真っ赤な炎が敵陣一面に広がっていた。それは、獄寺君のものではなくて、雫のものであった。


「それを使ったらお前ごと分解されるぞ!!!!」


 青白い顔になって焦る獄寺君を見て俺は、すぐにその場から彼女たちのいる方向へ飛び立った。


「大丈夫……きっとうまくやれる。二人とも離れててッ…………!!」


「おい、その炎で何すんだ?!」


「あの女、嵐の炎の特性、分解を利用してここ一帯をなくそうとしてんだよ!!!」


「!!?」


 微かに聞こえるみんなの声を聞いて、炎圧をあげ加速した。


 どうか間に合ってくれ。

 ごめん、俺は、まだボスになれる器じゃなかった。

 仲間をこんなに傷つけた。

 大切だと気づくのが遅くて、決して連れてきてはならない大切な人を戦いに参加させてしまった。

 ホント、しっかりしなきゃいけないよね。

 今、行くから……

 頼むから、頼むから間に合ってくれ!

 
「雫――――!!!!!」


 真っ赤な炎に包まれて、少しずつ自分の体に異変を感じ始める。分解の名の通り、その効果が皮膚などの表面に現れているのだ。

 中心へ行けば行くほど、その威力が増していき、そこには、気を失った雫が炎に包まれ浮いていた。

 急いで俺は、リングに質の高い大空の炎を燈し、彼女から放たれる赤い炎をなぞる様に放出した。調和の効果でみるみるうちに炎が消えていき、あたりを見渡せば、いつの間にか敵は一人もいなくなっていた。


 抱きかかえた彼女の体は、限界を超え今にも壊れそうだ。身体からは、大量の血が溢れ少しずつ呼吸が浅くなっている。


「俺がしっかりしていれば……ここまでにはならなかったのにっ…………。」


「10代目のせいではありません……。」


「俺達が不甲斐ないばっかりに……。」


「いいや、俺が悪いんだ。愛する人を護衛にしてしまったのだから。」


 だんだん冷たくなっていく彼女の体を抱き寄せると後悔も押し寄せる。


「愛していることにすら気がつかなかった俺は、最低……だっ。」


 目からは、大粒の涙が次から次へと落ちていく。愛していると知った時に、愛する者が冷たくなっていくなんて耐えられない。


「雫……愛してる。ごめん。頼むからこのまま逝ってしまわないでく…………れ……?」


 涙でぬれた顔を優しく拭ってくれる感触がした。


「わ、たし……死なないわ…………こんな泣き虫のボスをおいてはいかないわ。」


 ない力を振り縛って、俺に囁いた。


「愛して……いる人に、愛……して、も、らえてること……がわかって……かん、た、んに……逝ったりしない、わ。」


「もう喋らなくていいから! お兄さんの救護が来るまで耐えてくれ!!!」


 俺はこの後、生きていることへの喜びといつ消えてしまうかわからない灯に怯える感情が入り交じり、ぐちゃぐちゃに泣いて雫を抱きしめ続けた。


 俺の甘さから生まれた結果だった。

 彼女は、消えそうだった命から息を吹き返し今では前と変わらない元気を取り戻している。

 この時から俺は、変わり誇りを再認識した。

 見えていなかった、俺にとって大切なことを見ることができたんだ。


 もう二度と、迷ったりしない。

―END―
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