沖田長編 | ナノ


  再開


ジリリリリという煩い音の原因を力強く押して布団から這出ると春の朝らしく清々しい朝の日差しが差し込んでいた。
それとは対照的に私の心は苦々しく、これまでに何度ついてきたかわからないため息をつく


『またあの夢。』

その前もその後もわからない断片的な夢。
最近は見ることもなかったのに高校が決まってからは毎日のように見るその夢に心は重々しくなる。

『・・・着替えよ。』

考えていても答えは出ない。小さくつぶやいて新しい制服を取り出して着替えることにした。今日から入学する薄桜学園。正直倍率も高いし受かることなどないと思っていたがなんとか合格できた。実家から遠い上に去年まで男子校だったのに何故薄桜学園を選んだのかと友人にも問われたし家族にも問われたがわからない。
ただ、ここに行かなければ。その思いしかなかったのだ。
だから春から一人暮らしなわけで、祖母は特に心配をしてくれて安心させるのに多大な時間と労力をつかい果たした。


『うわ、さっむ・・・』

それでもやはり肌寒さが残るこの季節は制服のスカートは辛い物がある。
そういえば去年まで男子校だったのだから女子はやはり少ないんだろうけど何人くらいいるのだろう?1割程度なのかなぁ、なんて考えながらも家から徒歩10分の道をゆっくりと歩く。
時間に余裕はあるし怒られることはない筈だ。


「にゃー」


『・・・人懐っこいね、君。』

綺麗な毛並みの黒猫が私の足元に擦り寄ってきて撫でてみれば嬉しそうに喉を鳴らしていて、思わず口元が緩む

「としぞうーとーしーぞー?」

なんとない人の声だと思っていた。
なのに、遠くから聞こえるどこか聞き覚えのあるその声に猫を撫でていた右手が震え始める

『・・・え?なにこれ・・』

震え続ける右手を左手で包むものの冷や汗をかいてただ事ではないのは分かるのだが、足が動きそうにない

「あれ、としぞうこんなところにいたの?また女の子には手が早いね。」

嗚呼、この声は私を悩ませるあの声と似てるからか。そう気づいたものの振り返ることも出来ず、走り去ることも出来ず私はしゃがんだまま動きを止めた。いつのまにか黒猫はその男の元に行ったらしくなにもないところでしゃがんだままの私を不審に思ったのだろうか、男も声を発しない。


「ねぇ、君何やってるの?そこに何かあるわけ?」

少し呆れた声をだしたその人は私に近づいてきて、私の前にたった。

「・・・なまえ?」

『な、んで・・私の名前、』

驚いた様子のその人を見上げればほら。
何回も見た夢の中のその人そのもので綺麗な翡翠色の瞳は怯えた様子の私を写していた。

「・・・そう、君は覚えていないことを選択したんだ?」

『・・・は?』

覚えていないも何もあなたとは初対面です。そう言い切りたいのに懐かしいこの感じは何なのだろう。やはり夢の男に似ているからだろうか?

次の瞬間その男が発した一言に私は少しだけ衝撃的で悲しくなった


再開

(ごめんね人違いだ。)

(はじめまして)

(( 君との関係も再開だね ))


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