茜色の雫 私はそこそこ美人だと思う 自分で言うのもなんだがぶすではないと思う。休日一人で歩いていればそれなりに声はかけられらし付き合った男の数もそれなりにだ。普通の平凡な女子より少し上か同等位だと思っている。 そんな私もいま恋をしている 最初はこんな男有り得ないと思った。 顔は良いしスポーツも勉強もできる。 ただ、面白くない。 それが彼の第一印象だった 「なまえ、スカート丈が校則に違反しているのをいい加減に直せ」 『やだはじめ、放課後わざわざ呼び出してきたと思ったら個別指導?』 大真面目な顔をして私のスカート丈の短さを指摘してきた彼は何回注意喚起しても聞かぬからだろう、としれっと呟いた。大体私より短いスカート丈の子なんか校外を出てみれば沢山いるではないか。校内で言えば私を除いて唯一女子の千鶴だって充分短いスカート丈だ。いや、私より短い。 「・・・あんたが雪村との扱いに不満を持っているのであれば日頃の行いのせいだ」 『ちょっと、勝手に人の心読んでおいた挙句にそんな差別良くないと思うんだけど?』 「煩い、あんたは憎まれ口しか叩けぬのか。そのようなままでは男が逃げるぞ」 その言葉に思わず言葉が詰まった。 はじめには初対面から私の印象は最悪なのだ。校則を守らない、風紀委員に反抗する、可愛げの無い態度ばかり。私だってはじめだけは恋愛対象としてありえないと思った。友人としても難しいかもしれない、という具合だ。だけどそこから私がはじめの心をある程度開ける友人というポジションを勝ち取ったのは彼の優しさや話してみると意外に可愛いところがあったからだろうか 『・・・私だって好きな人の前では可愛い態度とるわよ。』 「ボロが出なければいいがな、あんたはいつも詰めが甘い」 その言葉を聞いて更に胸が締め付けられた まるで私のことを理解しているという口調は嬉しくもあり悲しくもあり腹立たしくもある。 私のことなんて分かってないじゃないかはじめは。 そもそも私が好きな人ははじめであってそのことにさえ気づかない鈍感男にここまで言われるのは心外だ 『・・・じゃあ教えてよ。どうしたら可愛くいられるのか』 ほんの仕返しのつもりでそう言えばはじめは考えに考えて暫しの沈黙が続いた。 「・・・笑えばいい。」 『はぁ、考えたのにそれだけ?』 本人は大真面目に答えたつもりだったのか私の言動にまた顔をしかめながら私の頬に指を滑らせる。それだけのことなのに私の鼓動は大騒ぎして体の熱が一気に上がるのを感じた。 「あんたは大人ぶるより笑った方が自然だ」 『ったぁ!!!なによふぉれ!!』 油断していた私の頬を強めに引っ張ってどこか楽しそうな笑みを浮かべた彼は茶髪のあいつを思い起こさせる。 はじめの馬鹿!!! 一見いつも冷徹な仮面を被っているように見えるけど彼は優しいし嬉しい、楽しいっていう感情は目の輝きに出す。今の彼は面白がっている、確実に。 そんなことを見抜けるほど私は彼の傍にいて彼もそれを嫌がることはしないいい”友人関係”だ。 それだけどその先に進むことはない。 「・・・なまえ?」 その声は動かない私を心配している声色で その心配は友人としての心配で 決して私ははじめと付き合うことはないのだ。 『・・・はじめ、』 やっと絞り出せた声は少し掠れていてはじめは何事か、と言いたそうな顔をしては私を見つめていた。 その瞬間だった。 「っ、すまない・・・!はい・・・今、ですか?っ!わかりました、向かいます!」 いつの間にか変えたのだろうか着信音がなってはじめは慌てた様子で電話に出る。 一昔に流行ったその曲は好きな人に好きな人がいても好きなんて内容の曲だった気がする。 「すまないなまえ、用事がはいった・・・」 『新しくできた彼女?』 その言葉にはじめは慣れていないように目もとを染める。 恋人ができた。そう伝えられたのは一ヶ月前のことだった。 1回写真を見せてもらったけれど年上で黒髪の綺麗な美人でしっかりしてて・・いかにも土方先生みたいな女の人。 いつも傍にいるのは私だと思っていたのにいつのまにかはじめは本当に傍に置きたい女の人を見つけてきたのだ 「今日は仕事が早く終わるらしい」 『へぇ、久々のデートなんだ?』 「っ、嗚呼。すまない、学校に迎えに来てくれるらしいのでもう行かなければ・・・」 『ん、ばいばい』 なんだかんだで気を遣っているのか私に少し申し訳なさそうな彼は嬉しそうな目の色を灯していた。 明日までにスカート丈、直して来い。そんな言葉をかけて去っていくはじめを見て耐えていたものが一気に溢れ出す。 『馬鹿じゃないの、はじめって』 『嫌い、大嫌いよ』 『年上の女なんてすぐ飽きられるに決まってるじゃない、』 目から出てきたそれは止まることを知らずに私のカーディガンの袖を濡らしていく 『はじめなんて捨てられちゃえばいいのに』 『そうしたら私が拾ってあげるから』 そうしたら、はじめは振り向いてくれる? そんなことはない、わかってるけれど私は強くそう願ってしまう はじめの幸せそうな顔は嬉しいのに彼の不幸を願ってしまう なんていう醜さだろう 私は自分で言うのもなんだがぶすではないと思う。 だけれど、心は相当な不細工だ カーディガンの裾さえも通り抜けた雫が数滴床に落ちていった。 茜色の雫 (空の色と同じ色に染まったように見えるそれは彼が受け止めてはくれなかった想い) |