雪の降る夜に。


寒い。

色とりどりに飾られた大通りを通り、定番のクリスマスソングが聞こえ
カップル達が共に歩いていく中俺の感想はそれだけだった。

何年かぶりのホワイトクリスマスイブらしい今日は沢山の人で溢れていて
待ち合わせをした筈の通りでは相手すらみつけれそうにないと小さくため息を付けばスマフォのバイブ音が聞こえた。

「はじめくん今暇かー?」

「・・・平助、俺は今暇ではない。故にあんた達の飲み会には参加しない。以上だ切るぞ。」

「ちょっとはじめくんなまえちゃん連れて早く来なよ待ってるんだけど」

おそらく平助の隣にいたのであろう総司の台詞を無視して切るぞ、ともう一度だけ言って切れば目の前に設置されている大きなツリーに目を向けた。
クリスマス前後の一定期間のみ毎年設置されるこのツリーは目立つ故に待ち合わせ場所として活用されることが多いらしい。

待ち合わせ場所を指定してきたのは相手の方だがまさか迷っているのではないだろうな、と時計を見れば待ち合わせ時間から15分が過ぎていた。今日は、今日こそは伝えねば、と精神統一をしようと目を閉じた時のことだった。

『はじめ?』

「・・・なまえ。」

後ろから聞こえた聞き覚えのある声に振り向けば今来たのであろう、少し髪の乱れた彼女がいて、申し訳なさそうに眉を下げているのを見るところ仕事が長引いたのだろう。

『ごめん、風間さんと遭遇して・・・』

そういったのは予約していた店にはいった頃でクリスマスイブということもあり、人がたくさん溢れかえっていた。

「逃げてきたのか?」

『うん、土方さんに助けてもらったの』

にこにこ、と笑みを浮かべる彼女にもっと警戒心を持て、と言えば不思議そうに首を傾げる。

「あんたは見ていて危ない」

『そうかな?』

「嗚呼。学生の時から・・・」

そう言った時になまえは懐かしそうに目を細めてほほえんでいた。

『ふふ、もう8年になるんだね』

「本当だな・・・あっという間だった。」


目の前のツリーを見る彼女は楽しそうに笑いながら昔の思い出を次々と語り出す。
笑う彼女を見ながら相槌を打てば更に楽しそうに笑う彼女から目を離せなかった。

『それであの時原田先輩がね、千鶴ちゃんにプレゼント贈ろうとして・・・あ!はじめに渡したいものがあるの!』

「・・・俺に?」

ずっと楽しそうに笑っていたなまえは急いで鞄を漁ると小さな袋を取り出してきた

『はい、メリークリスマス!』

「・・・開けていいか?」

突然の予想外のことにびっくりしながらなまえを見れば元気良く頷いた。

『はじめ、アクセサリーとかはしないしすごい迷ったんだけど・・・ 』

箱の中にはマフラーがはいっていて、暗い青色の落ち着いたデザインのそれをみながらなまえが照れくさそうに笑う。


「礼を言う、なまえ」

『どう致しまして、はじめ』

「・・・俺もあんたに贈りたい物がある」

『・・・へ?はじめが?私に?』

「嗚呼、気にいるかどうか分からぬが・・・」

小さな箱を取り出せばなまえの目が見開かれて少し揺らいでいた。

『・・・開けていい?』

なまえの問いに無言で頷けば彼女の綺麗な指が小さな箱に触れる。

『・・・これ、』

「・・・結婚しないか」


そう伝えるのに微かに震えた声を抑えるとなまえは泣きそうな目をしながら静かに頷く。

「・・・返事を。」

静かに促せば彼女は迷う素振りもみせず、またあの笑顔でつぶやいた。


雪の降る夜に。

(よろしくね、はじめ)