秘め事。


「みょうじ、午後までにこの資料をコピーしておいてくれ」

『・・斎藤さん、わかりました!』

静かな社内に響く声
毎回のことながら”斎藤さん”が近づく度に女子社員はひそかに歓声をあげている。

「いいなぁ、なまえは」

『何よ急に』

「斎藤さんに信頼されてるじゃない」

『私はあんたたちみたいに奇声をあげてないからじゃない?』

「ちょっと奇声ってなによ」

年甲斐もなくむぅ、と頬を膨らませた同僚が「私も斎藤さんとお近づきになりたい」なんていうものだから内心ヒヤヒヤとして仕方が無い。

私とはじめは、一年前から恋人関係にある。
容姿端麗、正にそんな言葉が似合う彼は女子社員から大人気。
彼女の座を本気で狙っている子も知っているからこそ最初は戸惑った。
だからこそ付き合う際に、私はひとつ提案を出した。

誰にも言わない

つまりこのオフィスに私たちが付き合ってることを知っている人は誰にもいないのだ。

「はーぁ、ねぇなまえあんた今日仕事終わり暇?暇でしょ?」

『あのねぇ、暇って決めつけないでよ。暇だけど』

「私が祝ってあげるわよ、三十路に近づいたもんね」

にやにやと昼休憩に食堂で笑う友人をみて気分が重くなるのを感じた。
そう、今日は誕生日で
そして仕事以外で彼から連絡が来なくなって2週間になる。
最後にプライベートで会った時にくだらないことで喧嘩して以来お互い謝ることもしないで他人のような芝居をオフィスで続けていた。

「ねぇ、なまえ今日辛気臭い顔ばっかりしてるわよ?」

『そう?あ、私仕事押してるからもうもどるね』

心の中でどき、とした私はトレーを持ってオフィスに戻ることにした。仕事が押しているのは事実だし
あんたが昼休憩に仕事?!明日雨が降るなんて背後で聞こえたけど無視だ、無視

オフィスに戻ると見慣れた背中がひとつ。


『あ・・・』

「・・・なまえ、か?」

『っ、もう仕事ですか?斎藤さんが仕事押してるなんて珍しい』

「・・・あんたは餓鬼か」

ため息をつく音と共に椅子から立ち上がる音が聞こえて
肩を掴まれた瞬間目が合った


「・・すまなかった」

『・・・え?』

「すまなかったと言っている。」

『・・・はじめが謝るなんて珍しい』

「なっ、俺とて謝罪が必要な場合は謝罪をする」

『っ・・・私も、ごめん、なさい』

「・・・嗚呼」

そう言って近づいてくるはじめを思わず制する。

「なにゆえ」

『ここオフィス!!!』

「知らん。この手を離せ」

『ちょっと・・・!!』

体力差には適うはずもなく、唇がふれる


「あんたは俺のだろう」

その言葉を発した彼の目は妖しく光っていて
この人から離れそうにない、なんて思いながらまた重なる唇に目を閉じたのだった。



秘め事。


( 二人だけの )


斎藤さんはもやもやしながら仕事が進まなくて昼休憩に仕事をすればいいと思います。( 笑 )