満月。


昔から人付き合いは苦手だ。
恋仲は何人かできたこともある。しかし、旗本を斬って以来俺には恋仲は必要のないように思えた。
人を斬り、また己も明日人に斬られるかもしれないそのような状況で恋仲等必要ない。
俺は俺の武士道を貫くだけだ。

そう思っていた矢先にお前は現れた。
お前は俺の考えを変えてくれた。俺はお前との先を夢見た。

『はじめさん、こんなところで何してるんですか?』

鈴のような可愛らしい声を響かせてお前はいつも俺の前へ現れる。

「・・・寝れなくて、な。」
『・・・・今夜は月が綺麗です。お茶でも淹れてきましょうか?』
「嗚呼、頼む 」
『はい、待っててください!』

そう言って嬉しそうに小走りでお茶をいれに
いくお前の姿を見て俺の心は沈む。

お前を幸せに出来るのは俺ではない。
お前には、もっと別の人生があるのではないか。
だけれども俺には、この新選組の道しかない。

それでもお前は、俺に夢を見させてくれた。それだけで俺にとっては十分なのだ。

『はじめさん、どうかしましたか? 』
「っ、なまえ。」
『なんだか今日のはじめさん、寂しそうです。』

お前は眉を下げて俺を見ながら真剣な表情で口を開く。
”私でよければ話してみてくれませんか?”と。

「・・・明日、伊東さんについていくことにした。 」
『え・・・明日、ですか?』
「嗚呼、明日だ。」

お前が目を大きく開いて驚く姿に俺の心臓が変に鳴り響く。

『・・・っ、急、ですね』
「それであんたに話がある。」
『なんですか?はじめさん。』

「これを機に、あんたと別れようかと思う。」

嗚呼、出来ればこの言葉なと言いたくなかった。

『え・・・?』
「話は以上だ。茶はあんたが飲め、冷めてしまう。 」

それだけを言って立ち上がると結月は何も言わず、ただ涙を流していた。

『・・・ごめんなさい。』

そんな言葉を聞いたのは、きっと俺の幻聴だ。

もし、任務が終われば
俺は、あんたをまた迎えに行ってもいいだろうか?


満月。

(満月を雲が多い隠した。)