友情ごっこ。


『あのね、結婚しようと思うの』

そう、彼女に告げられたのは久しぶりの再会で二人でのみに言った時の話

「・・・恋人がいるのか?」
『あれ、言ってなかったっけ?』
「嗚呼。」

『医者なの、彼』
ふふ、と笑みを零しながら日本酒に口をつける彼女はどこか幸せそうには見えなくて
思わず疑問に思ってしまう

『誰にでも優しくてね、完璧な人』
「幸せ、なのか?」
『んー、どうかな?』

曖昧な返答をしながら酒を口にする彼女は、
既に酔っているのか顔を赤らめながらも酒を飲むのをやめる気配はない

『彼ね、浮気性なの。』
「・・・浮気?」
眉をつり上げたのが見えたのかふふ、と笑みをこぼす彼女はグラスを持つ手を止めて遠くを見始めた

『私、結婚してうまくやっていけるかな』

・・マリッジブルーというやつなのだろうか?

「・・あんたなら、上手くやっているだろう?」

学生時代から人と仲良くするのは早かった彼女が自信無さそうにしているのが珍しく
まっすぐに彼女を見つめると彼女は少しだけ笑っていた

『ふふ、はじめありがとう。』

「っ・・・礼はいらぬ。」
『あ、照れた!はじめてれた!』
「・・・」
『あははっ、相変わらずはじめって面白いなぁ』

面白い?俺が?
俺のことを真面目と言う者は沢山いるが面白いなんて言う者は目の前にいるこの女しかいないだろう
相変わらず、理解し難い思考な女だ


そう思いながらも悪い気はしなかった

大学生の頃から俺は、きっと・・・


「なまえ、そんな男はやめておけ」

そう言ってやりたい気持ちを抑え

「愚痴くらいなら、聞いてやる。」

目を伏せてそう告げると少し困ったような笑みを浮かべ

ありがとう、と呟いた彼女の目は少し頼りなさげに見えた。

『わたし、はじめと友達でよかった』

「・・・嗚呼。俺もあんたと友人になれてよかった。」

きっと、俺はずっとこの女に心底惚れているのだろう。


友情ごっこ。

(この関係、崩せたらどれだけ楽だろう? )