「ン…ぅん…」
隣から声が聞こえた。小野寺はうっすらと目を開け、何度か瞬きを繰り返した。
「高野、さん?」
「何」
俺は素っ気ない返事をした。小野寺は肩をびくっ、とさせる。
そんな俺の対応に、戸惑いながら聞いてきた。
「怪我…したんですか?」
「お前より酷くねーよ」
「でも…」
どう見たってコイツの方が酷い。それでもこいつは俺の心配をする。しかし俺が冷たくあしらうせいか、視線を逸らし、あまり深くまで聞いてこようとしなかった。
そんな小野寺を見ていると、なんだかモヤモヤしてくる。
だから俺は、コイツに言った。
「俺、記憶ねーみてーだから」
「…え?」
小野寺は顔をあげて俺を見る。エメラルドの目が見開かれていた。
しかし、止めることはできない。
「だから、お前を好きって言ったの、無しにして」
「た、かの、さん?」
小野寺の声は、震えていた。
そして白い頬を伝って、涙が零れてた。
「男に振られたからって泣くな。ウザい」「っ!」
小野寺はごしごしと乱暴に涙を拭った。拭った目は、真っ赤になっていた。
その顔を見ると、また頭が、心がモヤモヤした。それを紛らわすために、俺は八つ当たりをするように、冷たく言う。
「俺は男を好きになる趣味はない。今日から俺とアンタはただの上司と部下だ」
「っ、はい…」
小野寺の震えた声が、やけに響く。涙は出していなかったが、きっとこれから泣くのだろう。小野寺はベッドに潜り込んだ。 俺は黙って病室を出ていった。
それから2日後に俺は退院し、2週間後に小野寺が松葉杖を持って退院した。
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