もういいかい。
まあだだよ。
かくれんぼ
最近、横澤さんは会う度に俺を睨んでくる。直接話すときには俺にだけ聞こえる声で「政宗に近づくな」と、言ってくる。
勿論ひねくれた俺がそんなことで屈することはないが、こう何度も続くと胃がやられる。
このままじゃ、胃に穴が開くかもしれない。
(だからって、誰かに言うのは…)
エメ編の誰かに相談すると、その内容はいずれ高野さんの耳にも入る。
(知って、一番傷つくのは、俺じゃない)
家に着いたのにまだ胃がキリキリと痛む。そりゃもう動きたくなくなる程に。俺は腹を押さえながら玄関に座り込んだ。家に帰れば腹も空くだろうと思い、コンビニで弁当を買ったが、しかし、一向に食べる気がしない。
(ああもう、やだ…)
今は何も考えたくなくて靴も履いたままに床に寝転んだ。フローリングの冷たさが頬から伝わってくる。
(もし、横澤さんのこと言ったら、高野さんはどんな反応するんだろう…)
考えたくないのに、頭に浮かぶのは高野さんの事ばかり。頭がぐるぐるしてる。
(俺は、どんな反応を期待してるんだろう)
頭とお腹を抱え込むように丸くなる。少しだけ、痛みが和らいだような気がする。
(ああでも、高野さんの悲しむ顔は見たくない)
何かが頬を伝う。
「小野寺」
自分の名前を呼ぶ声に勢いつけて飛び起きる。そして目線だけで鍵を確認する。閉まっている。
「小野寺、居るなら開けろ」
今は会いたくない。みっともない顔してるから。
(居留守しよう)
服で乱暴に頬を拭うと、音をたてないように靴を脱ぎ、寝室に向かおうとした。
「何かあったのか」
足が止まる。前に進むことも、振り向くこともできない。
「言いたくないなら、言わんでいいから」
止まったと思った涙は、また頬を濡らしていく。
「何もかも嫌になってんなら、俺の中に隠れとけ」
隠れるって、どういう意味ですか。
「そんで、元気になったら『もういいよ』って言え」
かくれんぼでもするんですか。もう、俺もアンタも子どもじゃないですよ。
「すぐに会いに来て、抱いてやるから」
何言ってるんですか。抱くとか、セクハラじゃないですか。なに、かんがえてんですか。なに、いってるんですか。おかしくて、なみだ、でてきちゃった、じゃないですか。
「ふっ、ひっく」
もう、たか、のさんが、お、かしな、こと、いう、から、へんな、こえまで、でた、じゃ、ないで、すか。
「律、好きだ」
それから俺は、持っていた鞄に顔を埋めて、声をあげて泣いた。
終
某曲を聞いていて突発的に書きたくなった。
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