理由

「よっ」
「またそんなところから。たまには玄関から入ってきたら?」

カカシはいつも突然やってくる。
お互いに忙しくやっているせいで、約束なんて役に立たない。
約束を交わずに会うためには彼が私を訪ねてくるしかないけど、今日みたいな日に来られた場合は困ってしまう。

「これから待機任務なの。もう少しで出ないと行けないんだけど、どうする?」
「いい。顔見に来ただけだから」
「そう言う割にはなんだか引っ付いてる気がするけど」
「んー?ま、いいじゃないの」

脱いだ靴を器用に玄関へ投げて、寄せた腰を更に引っ付けてくる。
すっぽりと胸に納まった自分を片目で笑い、ただいま、なんて珍しく言うから私も笑顔で返した。

「何分ある?」
「身支度の時間抜きで10分」
「……省略してもいい?」
「じゃあ今日は無理ね」

残念でした。と意地悪く笑ってやれば、本当に残念そうな表情でうなだれてしまった。
30にもなろう人がなんて顔してるの……。可哀想な気がしないでもないけど、時間がないし仕方がない。

「はい、離してね」

ぴったりとくっついていた腰は引き剥がしてやった。あのままだと、きっと根負けして遅刻する羽目になる。
少し早いけど、さっさと仕度して出よう。そう思い洗面台と対峙して髪を整える。

「今日はここで寝るのー?」
「そのつもり」
「!?」

別部屋に向かって声量を上げて聞いたのに、帰って来た返事はまさに真後ろからで、驚いて振り向こうとすれば抱き込められてしまい呆気にとられた。

「○○良い匂いがする。お風呂入った?」
「さっきねーー冷たっ!」

服の裾から侵入してきた手があまりにも冷やっこくて、プラスやっぱり抱きつくだけじゃなかったかという思いで少し大きめに上げた声。
追加の抵抗として鏡越しに睨んでみるけれど、そんなもんどうでもいいと無視され、冷えた手はそのまま上がってくる。
きちんと装着していたはずの下着も気づいたら外れていて、上がってきた手は簡単に胸へとたどり着いた。

「やめっ、……こら!」
「んー、わかったわかった」

なにがわかっただ。全然わかってない。
盛りまくった十代じゃあるまいし、セックスしていて遅刻したなんて情けないことは御免だ。
このままされるがままではと、うなじに口づけし始めた頭めがけて自分の頭を振り上げた。

「!?」

がつっ、と骨のぶつかる音がした。――と、なるはずだった。
軽い痛みで事に及ぶのが止まればそれでいいと思っての行動だったのに、予想に反して、私の身体は反転され、やんわり笑ったカカシとご対面状態。
含みの混じる笑顔が地味に腹が立つ。

「仕度しなきゃ、何分?」
「……25分」
「ふうん」

外されようとしていた口布の下で口角が上がるのがはっきりわかり、これはもう諦めるしかないと溜息を吐いた。
形のいい唇がまず額に当たり、鼻先、頬と徐々に下りていき、口元すれすれで止まった。

「しよう?」

我慢出来ない。
なんて言われたら、もうそうしてあげるしかない。すれすれで止まっている唇に齧り付いた。
手と同様に冷たいそれを払拭するがごとく啄み舐る私にカカシは再び触れて、冷たい手が若干荒く胸を揉む。
その動作があまりにも欲求に忠実で、彼でもがっつく事があるんだなとつい笑ってしまう。

「今笑ったでしょ」
「だって、あまりにも急いでるんだもの。そんなにしたかったんだなーって思って」

クスクスと笑う私に彼は眉根を寄せた。

「ごめんごめん、ついーー」

言い終わる頃には身体が浮いていて、抱えられた私は側の壁に押しつけられた。
足はカカシが抱えていて大胆に広がっている。何とも言い難い格好で押しつけられ恥ずかしい。

「ここでする気?」
「お前のせいでしょ」

止めてよなんて言わせない。
そんな笑顔が怖い。

乱暴にしないでね。と口に出そうとした時には荒い手つきで身体を弄られていて、遅刻もなにもかもを含めた諦めから溜息を吐いた。


だから、こういう日に来られたら困るのよ。



20130211

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