夢路

「俺が死ぬって?」

馬鹿が――と罵られても可笑しくない。
だって、私がみたのはただの夢。
夢の内容がそっくりそのまま現実に起こるなんて、そんなのありっこない。
だけど、その夢はあまりにも現実味を帯びていて怖かった。
舞う砂埃も、鍔迫り合いも、人や馬の叫び声も、何もかもが本当に起こっているかのように見聞き出来た。
そんな夢の中で彼は死んだ。私の目の前で。
表情も何もかもが鮮明だった。倒れる様子も、最後のうめき声も全部。
そんな恐ろしい夢を見て信じない方がどうかしている。……いや、夢は夢なんだからと信じない人もいるかもしれないけれど、少なくとも心配になるくらいは誰しもあるでしょう?
だから彼に迫っているかもしれない危険をありのままに話して、どうにかそうならないように回避してほしかった。

「真剣な顔をして何かと思えば……ただの夢だろ」
「でも本当に鮮明だったんですよ。開戦の法螺貝の音も、合戦の様子も」
「じゃあ相手は誰だよ」

相手?――そういえばそれはわからなかった。

「それは……」
「そんな曖昧なもんを信じろってか?あんたも随分と面白い事を言うようになったな」
「た、確かに信じろというのは無理があると思います。でも心配で……政宗様がいなくなったらって……」

そう言いながらも段々と自分が馬鹿らしくなった。浮ついていた頭が現実に戻ってきた感じ。
最後の方は言葉にするのも恥ずかしくなって、掴んでいた袖を離し俯いた。

「――目、覚めたか?」
「……はい、ごめんなさい」

更に呆れた様子の声色に恐縮しながら、逃げ出したい気持ちをそのまま表すかのように適当に頭を下げて急いで自分の寝所へ戻ろうと腰を上げた。――けれどそれは叶わず、腕を引かれ、そのまま政宗様の上へと落ちる。

「おいおい、逃げんのか?」
「だって……くだらない事で政宗様を起こしてしまったから、早く戻ろうと」
「なんだ?寂しいから適当に理由つけて此処に来たんじゃないのか」
「は――?ち、違いますっ!本当に夢を見て――」

不機嫌だった表情をいつもの自信に満ちたものに変え、片眉を上げながら「いいから、黙れ」と耳打ちする。
それに弱いと知っての行動なのか、それとも本能のままの行動なのか。結果私は力を抜き、身体を全て彼に預けてしまう。
逃げる様子のない私の頭を満足げに撫でる。とても優しい手付きで。
大事なものを慈しむような手付きで、髪を撫でつけたり梳いたり。時折、指で耳や首筋を軽く撫でる。
その気持ち良さといったらない。城で飼っている猫達は毎日こんな気持ちいい事を味わっているのかと思うと、猫にまで嫉妬したくなる。
そのまま彼の手が太股を這っていくのを感じながら、この後起こることの気恥ずかしさを隠すように、ゆっくりと瞼を閉じた。



[2010/09/08]

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