patipati


方向転換
カカシ

いつも無茶ばかりしている彼が少し嫌いだった。

「また無茶したねー」
「そうですね」

ベッドに横たわって動けない相手を睨んでみるけれど、睨む先がこちらを向いていないんじゃ意味がない。
どうしたら自分の身体について真剣に考えてくれるんだろうとか、入院三度目辺りで考える事を諦めた。
こんなことばかりするんだ。きっと彼は死にたいんだろうから、望み通り放置するのがベストだと放っているのに、いつも生きるか死ぬかギリギリのラインで帰ってくるもんだから、こちらとしては治療するしかない。全く、迷惑な人だこと。

「毎回俺の担当なんですね」
「そりゃあそうでしょう。君の場合、少しの怪我とチャクラ切れ起こしてるだけだもの。大した事するわけじゃないから、中忍の私が担当になっちゃうよね」

ある程度察していそうな態度に、それは君が暗部だからだよ。と告げる必要もないように思えて適当な理由を並べた。
まだ幼さを残した目つきが“あ、こいつ嘘吐いた”とこちらを向く。この色違いの目が吃驚するくらい生意気で。こっちは無茶した代償を治療する側だってのに、その眼からは全く感謝の気持ちが伝わってこなかった。

「カカシくーん、左目開けてたら安静にしてる意味なくなっちゃうよ」
「そしたら治してくれるんでしょ」
「無駄に仕事増やさないでくれるかな。こっちのチャクラが持たないわ」

再び睨めば生意気な眼は不機嫌そうにふいっと別のほうを向いた。きちんと左目を閉じる辺りは素直でよろしい。

「ねえ、そろそろなんで無茶するのかぐらい教えてくれない?」
「それが分かったら何か変わるんですか」
「そうね。変わるかもね」

私達の関係が更に悪い方向へ向かうかもしれないその理由をさっさと話せ。
そう促すようにジッと見つめ続けると、カカシ君は今までにない反応を見せた。
私が予想していた通りの理由を言って、結果私が怒って彼も不機嫌になって終わると思っていた。けれど、僅かながらに見せた動揺が事態を予想とは違う方向へ進め始める。
言うのを躊躇いうろうろと彷徨う視線が、彷徨いすぎて私とぶつかってしまい見開きながら全力で逸らされた。こういう視線は子供の頃に同じ年の男から受けた事があるけれど、まさかそれがこの子から向けられると思っていなかったので、こっちもうろたえる。なんだか本格的に空気がおかしくなってきました。

「担当」
「ん?」
「俺の担当なんでしょ。疲れても、あんたが治してくれる」

これがこの子じゃなかったら、きっと胸をきゅんと鳴らしていた。やだ〜私に治してもらいたかったから無茶したんだ〜思春期の男の子可愛い〜うふふ。なんてからかい、退院するまでこちらも楽しめたかもしれない。
けれど、相手がこの子なら話は別。今まで散々迷惑かけておいてなんだその理由は!ある程度まで回復すればあとは放っとけばいいけれど、そのある程度まで回復させるってのが意外と面倒臭いんだぞ。

「言っとくけど、わざとじゃないですよ。多少無理しなきゃいけない状況が多いってだけ」
「馬鹿ね。あなた上忍でしょ。その無理をしないように策を練るのが仕事じゃない」
「そう言われてもね。今の状況、良く知ってるでしょ」

怪我で運ばれてくる患者に暗部が多いところから、色々とよくない動きがあるのはなんとなく察していた。怪我だけじゃなく、疲労困憊で運ばれてくる暗部も多い。病院での私の出番も多いって事は、暗部の人手も足りていないはず。そうなれば、残っている優秀な人材は馬車馬の如く働かさせられる破目に陥る。疲弊しきった状態で次の任務をこなしていれば、自然とチャクラ切れを起こすような状態になっても……ま、おかしくはないか。

「――そうね。馬鹿なんて言って悪かったわ。それともう一つ。今まで少しあたりがきつかったと思う。嫌だったでしょう?ごめんね」
「別に。気にしてないから」
「そう、良かった。――で?ここで倒れても目が覚めたら私がいるし〜治してくれるし〜って思いながら任務やってるんだ?結構可愛いのね、カカシ君って」
「……あんた、結構性格悪いね」
「でしょう?」

機嫌の悪くなったその顔に、今まで向けたことのなかった笑顔を向けると、ほんのり赤くさせた頬を隠すようにそっぽを向いた。そっちを向いても私からは丸見えなんだけど、首から下が動かない相手にそれを言うのは酷だろう。

「これから毎日、手取り足取り看病してあげるからねー。なんなら看病以外の事もしてあげるよー?」

からかって楽しんでやろうとする私と、言うんじゃなかったと後悔する君。
悪い方向に変わらなかったのは、私だけのようだった。



2013/02/13

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